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第16話

「寒い?」 唐突に瀬名が口を開いた。なんで、このタイミングでその質問?一瞬そう頭を過ぎったがピカピカと光る窓の外に気をとられ、それどころではない。 「……寒くない」 「そう」 「そ、そんなことより日誌置いて早く帰りたい」 そこまで言って、足の力が抜け落ちた。 俺はズシンと腹まで轟く雷鳴に負けたのである。 雷vs俺。 そんなもん勝ち目なんて最初からあるわけない。 瀬名はペタンと座り込んでしまった俺の足元から日誌を拾い上げた。 「じゃあ、届けてくるけど」 「あぁ、よろし、っ」 「く」を言い終える前にまた窓の外が光る。ぎゅっと目を瞑って、数秒後に遅れてやってくる音をやり過ごす。 ふうっと息を吐いて目を開けると、瀬名は俺を凝視していた。 「な、何だよ。早く届けてこいよ」 「あぁ、やっぱり。怖いのか」 「っ!」 図星をつかれて瞬間的にかぁっと顔が熱くなった。立ち上がれない理由を探して言い訳しようにも、この状況じゃ一目瞭然だ。だけどいい歳してこんなことに怯えているだなんて、絶対にバレたくない。 「んなワケないだろ!っひ……」 強がりを言った瞬間、ぴかっと外が再び光り反射的に手が伸びた。 ──その手は、瀬名の制服の袖をしっかりと握っていた。 「ぁ……」 言い訳のしようがない俺の行動と、止まないどころか勢いを増して轟く雷鳴と、オタクの瀬名しかここにはいないことと、色んなことがごちゃ混ぜになり、思考回路が麻痺してしまった。 俺、終わった……。 取り敢えず、無意識に掴んでいた瀬名の袖を放して「行ってこいよ」と呟いた。すると瀬名は座っている俺に目線を合わせ、無言で厚いレンズの黒縁メガネをおもむろに 外す。 え、え、ここで外すのか!? まだ見たことのない瀬名の素顔。 一瞬、雷のことが頭から消えた。 「えぇっ!?」 俺は呼吸することも忘れ、瀬名の顔を食い入るように見詰めた。 「おま……だ、誰?」 「誰って、瀬名英治だけど」 俺を見て、ふっと笑ったその顔は驚く程精悍に整っていた。 メガネの下に隠されていた陰湿そうに見えていた目は、スッとした切れ長の奥二重で、瞳はキレイなブラウンだった。 男らしく高い鼻筋と絶妙なバランスに位置している各パーツ。笑顔から覗く歯は健康的で艶やかに輝き、肉感のある唇もセクシーだ。 これ、本当に瀬名なのか。 俺の視線が瀬名の身体を這うようにして追う。 悲しいことに頭のもっさり加減が正真正銘本物の瀬名英治を物語っていた。

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