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第18話

恐怖にプライドが負けた瞬間だった。 タックルする勢いで瀬名の胸にしがみつき叫ぶ。 「いっ、一緒に行くっ!」 「……うん。……ツンデレチャラ男受け萌ぇ」 ん? 何だ? 何か聞こえた気がするが、そんなことはもうどうでも良い。早く何か気を紛らわすアクションを起こさねば! ここから先は俺の黒歴史だ。 瀬名が「んー」と唸りながら考える素振りを見せた。 「でもどうしようかな。羽柴君……俺のこと嫌いだよね?俺なんかと一緒に歩くの嫌だよね。だからやっぱり俺一人で行ってこようかな。まさかそのスマホに雷落ちるなんてことはないと思うけど……」 瀬名は俺を見ながら唇の端をくっと持ち上げて笑ってみせる。 ちょっと待て、悪魔か。 さっきまでの紳士的な態度はどこ行った。 「ちょっと待って。なんでそんなこと言うんだよっ!そりゃあお前のことはオタクだしキモいし関わるのも嫌だったけど、今は嫌いじゃない!いくらダサくてキモくても、いい奴だってわかったし。……今までのことは謝るから、なあ、置いてかないでよ……」 完全に理性が崩壊した。 この雷鳴の中、いくら視界がぼやけても、意味不明なアニメソングで耳を覆われたとしても、それでも一人残されるのは不安しかない。 じわ…と涙が滲んで思わず瀬名の胸に縋った。 瀬名の胸から俺とは違う大人っぽい男の匂いがして、それにすら縋りつきたい気持ちになった。 「じゃあ、俺のこと好き?」 なんだよその質問。 変だ。 けれどここは答えるべきだともう一人の自分が言う。 「す、好き……なような……」 「よく聞こえないな。もう一度言ってみて」 「好き、好きだってば……」 はっきり言って俺の思考能力は低下し、その上半泣き状態で、心身ともに混乱を極めていた。 こんな言葉で助かるのならお安いもんだ。 俺は自然と上目で瀬名を見つめる様になり、俺の鼻が低いのか瀬名のメガネが少しズれた。 すると瀬名が顔を近付け片側のイヤホンを外した。 「涙目、可愛い」 そう俺の耳元で囁いてニコッと笑う。 「っん……」 鼓膜が震えた。 思いがけず低い声で囁かれ驚いただけだ。そう思い込もうとした。 けれど俺はその時相当弱っていたに違いない。 多分、今までにないシチュエーションに流されたのだ。 瀬名が俺の顎をクイッと持ち上げた。 その後の想像は出来たはずなのに、抵抗する気にならなかった。 「っふ……」 あろうことか、俺は瀬名に唇を奪われたのである。 強い男の匂いを感じた気がした。 瀬名の唇は程よく弾力があり、女の子みたいにふにゃっとした柔らかさはない。 目蓋から遠慮がちに伸びた睫毛は長さが均等で、前髪から見え隠れする眉は手入れもされていないのに、やっぱり整ってる。 意外と俺は冷静だった。こんなことを観察する余裕があったのだから。 しかし、どうして俺は抵抗しない? なぜだ。 どれくらいそうしていたのかわからない。やがて啄むようにチュッと音を立てて瀬名の唇が離れていった。

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