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第19話
唇を離した後、瀬名の腕に包まれた。
もやもやとした変な視界にアニメソング、瀬名の腕の中。
本気でカオスな状態なのに、守られてると錯覚し男臭い腕の中に安心した。
藁にもすがる思いで泣き崩れみっともない姿を晒した上、不覚にも男に唇を奪われるという予測不能な事態に陥ったその後、程なくして雷は止んだ。
止んだ後も瀬名の胸でじっとしていた。
「雷止んだね」
「えっ」
はっと我に返り、弾かれたように顔を上げる。見慣れない顔が微笑んでいて羞恥心が襲ってくる。
どくどくと、いつもより激しく波打つ心音に気をとられ、遠ざかる雷鳴に気付けなかったのだ。
「し、死ねよ!このスケベ!へっ、変態っ!」
俺は全身全霊の力を込めて瀬名を突き飛ばした。
更に瀬名が机に置いた日誌を投げつける。
「てめーが出してこい!今すぐにっ!」
啖呵を切ってみたものの、瀬名の身体はただ長身なだけじゃなく案外がっちりしていたから、日誌を投げつけてもほんの少しよろめいただけで、アイツは俺を見てくくっとかみ殺すような笑いを洩らした。
「くっそ、笑ってんじゃねーよ!」
「羽柴君って猫みたいだよね。可愛い。気に入った」
子供扱いされたのか、ペットみたいな扱いをされたのか、どっちにしてもさっきの抱擁は俺を下に見ていた態度だったと改めて気付かされ、悔しいやら恥ずかしいやらでかあっと顔が熱くなる。
「何それ。猫みたいとか、可愛いとか……キモいっつーの……」
どんな捨て台詞を吐こうとも、所詮負け犬の遠吠えくらいにしか思われていないだろう。
くそ……。こいついつか泣かせてやる!
ギリギリと歯を食い縛り怒りを我慢している俺を見て、瀬名はこともあろうかこんな言葉を俺に向かって吐いたのだ。
「あ、そうだ。今度ネコ耳着けて俺とセックスしよう」
と。
「ネコ、ネコ…耳……。せ……っくす?」
「にゃんにゃん言わせたいな。羽柴君」
「……っ」
お、恐ろしい……!
ただでさえオタクの風貌が気持ち悪いのに。
実はイケメンでした、そして男もイケます、更にコスプレプレイしませんか……。
フツフツと自分の腹が煮える音が聞こえてきそうだ。
「てめーは一回しねっっ!!」
気付けば俺は瀬名の顔面目掛けて跳び蹴りを放っていた。
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