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第25話

瀬名は瓶底メガネのブリッジをくいっと人差し指で持ち上げて笑う。 「そうだなぁ。俺が飽きるまでかな?」 「飽きる……まで……?」 何だそれ。……本気で泣きたくなってきた。 「こっちおいで」 瀬名は半ば放心状態で体に力が入らなくなった俺の肩を掴みソファーへ座らせる。 座った途端、ポンと尻が弾んでなかなかスプリングのききが良く高価そうな座り心地だ。 ……。 というかそんな事今はどうでもいい! これって相当ピンチじゃないか? このまま押し倒されてヤられるのか? 嫌だ……!絶対嫌だ!! 体格差を考えれば瀬名の方が力がありそうだ。でも俺は割と瞬発力がある。だからきかっけさえあれば逃げ出せるかもしれない。 「ま、待って、待って瀬名」 「何を」 「や、だから、俺と、する……の?」 「そのつもりだけど」 どうする、どうする俺!何とかこのピンチを切り抜ける方法を考えろ! 「実は俺、瀬名のメガネ外した顔、結構好き……」 「好き?」 「うん。だからコンタクトしてる姿見たいな……。それから髪もドライヤーでブローしたら?ツヤが出て更にイケメンになるよ?俺、もっとイケメンな瀬名が見てみたいな」 苦し紛れに口から出まかせを吐く。 少しでもいい。時間を稼ぎたい。 それで、「あ!もうこんな時間?学校行かなくちゃ」って流れを作るんだ! 残念だが他に助かる方法が思い浮かばない。 「更にイケメンって……俺のことイケメンだと思ってくれてたのか、羽柴くん」 「や、その、メガネ外した顔がね……。髪もサラサラにしてくれるともっとカッコいい」 「わかった。ちょっと待ってて、今メガネ外してコンタクト入れて、髪ブローしてくるから!」 瀬名は俺の言葉を真に受けたようだった。 これだけの適当な言葉に反応するなんて変な奴だ。俺に嫌がらせがしたいだけなら、外見なんてどうだっていいだろう。 むしろ今求めた瀬名の姿より、もさもさもっさりの瓶底メガネのまま嫌がらせした方が効果的だとは思わないのだろうか。こんな要求を喜々として飲むなんて、まさか瀬名は俺のことが好きなのか? 機敏な動きで洗面所へ向かう瀬名の背中を見詰め、溜息を吐く。 ほんとキモい。 時計を見るとまだ6時半だった。 どうやって逃げ出そうか引き続き考える。 もういっそのこと風早達にこれをバラして瀬名をシメてもらうとか……。 あーやっぱ無理。瀬名とキスしたなんて絶対言えない……。 何かこれを終わらせる方法。 ここから逃げ出す方法。 何か鈍器のようなもので頭を殴って気絶したところを見計らって逃げるか。 ……いやダメだ。それじゃ犯罪だ。 そして待つこと5分。 ツヤサラの黒髪に切れ長の涼しげな瞳、全てが整った風貌の美男子が現れた。しっかりとした身体つきの長身と美貌はモデルのようだ。 「すげ……」 女の化粧よりすごい化け方だ。オタクのくせにずるい。三次元にまでモテようとしているのか。 「ごめん、待たせたね」 「や、別にいいよ……」 はっ!!こいつがコンタクト入れたりしてる間に逃げればよかった!! ……今更そんなことに気付いても後の祭りだ。 そして、俺は瀬名のイケメンオーラとその迫力に圧倒され、気付けばソファーの上に押し倒されていた。 「あ、あの、ちょっと待って、俺おと……んっ」 男となんかしたことないから怖いってアピールするつもりが、その言葉は瀬名の唇に呑まれてしまった。 「ぅ……んっ」

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