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第30話

ほどなくして琴音ちゃんが戻ってきた。トレーには氷の入ったグラスに注がれたアイスティーと、渦巻き模様のクッキーが乗っている。 ちょっとだけ、緊張してきた。 瀬名に押し倒されて感じた男の力強さとか、至近距離で見た瀬名の顔とか、少しかさついた弾力のある唇とか、いろんなことを思い出してしまう。 しかし今目の前にいるのは瀬名じゃない。琴音ちゃんだ。 ……あれ。俺今までどうやってリードして、どうやってそんな風に持ち込んでいたんだっけ? 本気で少し混乱した。 いやいや、ここは頭で考えるよりも本能勝負だ。 琴音ちゃんはベッドに寄り掛かる俺の隣にピッタリと寄り添うように腰を下ろした。 隣に視線をやると、色白な肌と寄せた胸の谷間が目に飛び込んでくる。 いつの間にか琴音ちゃんのブラウスはボタンが4つほど開けられていて白いブラジャーと寄せ集めたおっぱいが俺を誘っていた。 生のおっぱい久し振り。……なのになんであまり嬉しくないんだろう。 「あの、さ、琴音ちゃん」 「なぁに?」 「俺のこと好きなの?」 少しの間があって、琴音ちゃんはふふっと笑った。 「あたしはトモくん好きだけど。でもともくんは好きじゃなくてもするんでしょ」 ぐっと喉に言葉が支える。返事をしてもいいものか。軽薄なのがバレている。 それでもいいということだろうか。 「トモくんの可愛い見た目は好きだし、爽やかを装って実はヤリチンだったり、あたしはそういう軽ーいトモくんのこともっと知りたいなぁ。あゆみとはどんなセックスしたの?トモくんはあゆみにどんなエッチなことしたの?教えて?」 ……琴音ちゃんの言葉に違和感を覚える。 あゆみ、あゆみってあゆみちゃんに固執した言動はどこかおかしい。 確かにあゆみちゃんとは一月前くらいに迫られてこういう関係持ったけど……。 でも、そもそも今、ここでこうしている俺達に、あゆみちゃんは無関係な筈。 ……怖い。そう思ってしまった。 そう思ってしまったらもう体が動かない。わけのわからない恐怖心に襲われて俺のあそこは萎縮したままだ。 俺の気持ちなどお構いなしに琴音ちゃんは既にやる気満々で、何も答えない俺の上に移動した。 「あゆみにしたことと同じこと、琴音にもして?あゆみと同じ気持ちになりたいの」 赤いグロスの付いた唇が俺の唇に押し当てられて、俺は硬直した。 背筋がぞっとした。 あゆみちゃんと琴音ちゃんはどういう関係なんだ。 わからない。わからないけどこの子はおかしい。 ───俺はいつの間にか、あゆみちゃんと琴音ちゃんの女の抗争に巻き込まれていたのだ。

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