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第33話
琴音ちゃんがどう応えようと俺の心はもう決まっていた。
何にしても琴音ちゃんとは関係を持たない!もう、それしかない。
軽々しく体目当てに女の子に近づいたバツだ。そう思うほかなかった。
それにこの場から一刻も早く立ち去りたい。
俺は額を更にぐっと下へ押し付けた。
「……」
沈黙を先に破ったのは琴音ちゃんだ。
「ば、ばっかじゃないの!土下座で納得するわけないでしょ!女の子にここまでさせといてエッチしないとか一体何のつもりなのよ……。インポなの?」
あぁもう精神的なインポで間違いありません。心の中で返事した。
俺が顔を上げると琴音ちゃんのハサミを持つ手が下がる。少しは動揺しているに違いない。
キッと睨まれ慌てて土下座ポーズに戻る。
「あゆみがあんたみたいなヤリチンに本気になるとか……ありえないんだから……」
「……へ?」
琴音ちゃんの言葉が解らない。何が何だか理解出来ず頭をラグにつけたままフル回転させるが何のことやらサッパリだ。
───カツン
ん?
その時窓ガラスに何か固いものがぶつかる音がした。
琴音ちゃんも気付いてハサミを一旦机に置くと、ピンクのカーテンをシャッと開けて磨り硝子の窓を開ける。
何だかわかんないけど、俺逃げられる?
琴音ちゃんが窓の外に気を取られている隙に逃げ出そうとソロリとドアへ向かって移動する。
「俺のももにゃん返してもらえるかな」
「……!」
だが窓の外から聞き覚えのある声がして足を止めた。
「……は?ももにゃん?」
「あ、いや、ともにゃんだ。いや、智也を返してくれないか」
ももにゃん、ともにゃん、智也、と三段落ちを付けた上、ゴホンと咳払いする音がした。
ももにゃん…よく通る低めの声……間違いない。 ……瀬名の声だ。
琴音ちゃんは窓の外から視線を外さない。
「あいつ誰?……あんな美形うちの学校にはいないよね?……智也ってあんたのことよね?あの人あんたの友達?いつの間に呼んだの?」
何で瀬名が俺の居場所を知っているのか疑問が頭を過ぎったが、深く考えている暇はない。瀬名の登場に便乗するしかないだろう。
「城崎琴音、智也の制服を切り刻んだ一連の出来事、全て録音済みだ。……まぁ、わかるよね?バラされたくなかったら大人しく智也を返しなさい」
「録音っ……!?」
琴音ちゃんが狼狽えた声を上げた。
俺も一瞬耳を疑ったが、瀬名の俺を嵌めるまでに至った用意周到さ加減を思えばあり得る話だった。
録音っつうか盗聴だろ……。瀬名ならやりそうだ。キモオタな見た目通りの陰湿なやり方。
っていうか!
瀬名は俺のストーカーかっ!?
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