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第34話
───だけどこの際ストーカーでも何でもいいや。
こんなピンチに駆け付けるなんてまるでヒーローみたいに思えた。
どうしてだろう。
この時俺は絶対に瀬名が助けてくれると信じていた。
そんな気持ちになったのは瀬名の他に頼れるものが何もなかったからだと思いたい。
瀬名が一際大きな声で俺に言う。
「智也!!そこから飛べ!!」
「は?飛ぶって何!ちょっとあんた頭おかしいんじゃないの!?」
俺は苛立ちながら声を荒げる琴音ちゃんをやんわりと押しのけて、窓枠に手をかけた。
この時の俺にとって、瀬名は救世主で。
「受け止めるから飛べ!ともにゃん!」
「アホ!ともにゃんじゃねえっつーの!」
腕に力を籠めて窓枠に乗り上げた。
「おいで、ともにゃん」
窓の下に瀬名がいる。
黒い細身のパンツにシンプルな白いシャツを羽織って見たことないほど真剣な眼差しで俺を見ている。
なんてことないごく普通の服装にも拘わらずその時の瀬名は、キラキラと輝く、まるで白いマントを纏った白馬の王子様のようだった。
悔しいけど格好いい。
黒髪はサラサラと風に揺れ、眼鏡のない涼しげな双眸に柔らかな光を湛えて、その視線を俺に注ぐ。
瀬名の手が腕が俺に向かって大きく開かれた。
どくん。心臓が大きく脈打って。
「……にゃん」
小さく鳴いて、俺は飛んだ。
ここは2階だし、もちろんケガしてもおかしくない高さではあるけれど、瀬名は俺を受け止めるって何故か信じてた。
恐怖を感じている暇なんてない。
ふわっと身体が宙に舞う。
宙に投げ出された体はすぐさま重力に引っ張られ、地面へと吸い寄せられる。
瀬名、……瀬名!
瀬名へ手を伸ばした。
ドンッ───と、大きな衝撃があって、仄かに男の香りがした。
瀬名の匂いだ。
「羽柴くん……大丈夫?」
俺は尻餅をつく瀬名の腕にしっかりと抱きかかえられていて、五体満足でここに居ることに安堵の溜め息を吐いた。
恐怖による緊張が少しずつ解けていく。
しかし、とくん、とくん……と別の理由で心臓が早鐘を鳴らし始める。
「瀬名……あり」
俺はありがとうって素直にお礼を言うつもりで顔を上げたが、その声は瀬名の声でかき消された。
「は、羽柴くんっ!そのワイシャツ……!」
視線は卑猥に切り取られたワイシャツにピンポイントで向けられた。
「あ?あぁ、お前も相当キてるけど、琴音ちゃんも相当ヤバいよな~……」
瀬名は俺の胸元を凝視しながら言った。
「……ピンクの乳首……パーフェクト!!」
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