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第48話
『それはないな』
って言葉を。
冗談めかして聞いた「俺のこと好き?」に瀬名はハッキリと否定した。
でも、なんで。今感じている瀬名の手も声も、すごく優しい。
思いっきり勘違いしちゃいそうだ。
瀬名が耳元でハッと吐息を漏らす。熱を含んだような吐息。
「可哀想な羽柴君って、最高にそそるね。イタズラしたくなる」
どうしよう、イタズラして欲しい……。
「……俺のこと、嫌い?」
「ん?」
ふっと瀬名が笑う。
「嫌いじゃないよ。可愛いって思ってる」
「でも……好き、じゃないよな?」
瀬名が一瞬目を丸くしたような気がした。
「羽柴君どうしたの?俺に好きって言わせたい?」
「ち、違うっけど、どう思ってるのか知りたい」
瀬名は少し考えた素振りを見せて口を開いた。
「そうだな。正直、同じクラスになって始めの頃は嫌いだったよ。未だに羽柴君のグループは苦手だ。そんな中、必要以上に絡んでくるのが羽柴君だった。だから羽柴君をあまり見ないように意識してたんだ。こっちは関心持ってないとアピールしたかった。だけど羽柴君は目立つしパッと見アイドルっぽい顔立ちしてるから目に入るし、何故か俺達につっかかる。関わりたくないのはこっちも同じだったけど。……羽柴君が踏み込んできたんだよ。正直言って好きじゃなかった。女の子を食い散らかしてるって噂もあったし」
そりゃそうだろう。 俺だって瀬名達が嫌いであからさまな態度をとっていたんだから、好きになれるハズがない。
俺は黙って聞いていた。
「だけど、あの雷の日。羽柴君の意外な一面を見てちょっと見る目が変わったんだ。何て言うか、とにかく可愛いなって。今も警戒心のない無防備な羽柴君が可愛いと思ってる」
可愛いってところだけ誇張する。好きじゃないけど可愛いって、どういう意味なんだ。
「可愛いって……別に俺女じゃねえし、そんなこと言われても嬉しくない……」
「でも可愛いんだから仕方ないでしょ。それより、それをネタに俺にやらしいことさせられてるの嫌じゃないの」
「……嫌じゃないから困ってんだよ!」
「ねぇ、もしかして、それって俺のこと好きってことかな」
「……っ!んな訳ねえだろ!」
この時の俺は気付かなかった。俺も瀬名も相手の『好き』という言葉を待っていて、でもそれを言ってしまったらお互い何かを失う気がして、本心が言えないことに。
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