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第49話

お互いに欲しい言葉をさぐり合ってそれが何なのかヒントをくれるのは、そこに流れる甘い空気だけ。 離れがたい気持ちを抑えて瀬名の胸を押し返す。 「……帰る」 俺を心配してか、瀬名はアパートの外まで見送ってくれた。 瀬名の腕の中、守られているようでどこかホッとした。 別れた後も瀬名の体温や声、顔を思い出して仕方ない。 俺はいつからこんなに瀬名で頭がいっぱいになってしまったんだろう。 気持ちを伝えたら負けだと半分開きかけた蓋をまた閉じる。 気持ちは浮いたり沈んだり。 恋でもしているような自分が気持ち悪い。 それにしても、八雲のことは気掛かりだった。自分が渦中の当事者となっていることも胸に不安となって重くのし掛かる。 でも瀬名が動いてくれると言った。 ほっとした反面、どこまで頼っていいのかわからない。 このまま放っておくのは怖い気がして物凄く気味が悪かった。 夏休みに入ってすぐ、俺は風早達に連絡し、学校近くにあるファミレスに集まって貰うことにした。 八雲のことを相談するためだ。 運の良いことに永谷だけはバイトで捕まらなかった。あいつは無駄に声だけデカいので内緒話をするにはいない方が好都合だ。 八雲がいじめにあっていて、俺が犯人に仕立て上げられている。それを伝えたとして、俺と八雲の接点を風早達は疑問に思うことだろう。となると、俺と瀬名との関係も暴露しなくちゃならなくなりそうだ。 どうしよう。 どこまで話せばいいのか、わからない。 自宅の玄関を出た瞬間、茹だるような暑さに全身が包まれた。 このままここにいたら間違いなく熱中症で倒れるってくらい暑い。 何もしなくともポタポタと汗が流れ落ち、前髪が額に張り付いてしまう。 せっかく髪をセットしてカッコつけてもこんなに汗だくじゃ……。 雰囲気イケメンは顔のテカリも許されないのに、この暑さには到底太刀打ちできず、雰囲気すらイケメンではなくなってしまった。 まぁいいか。女の子と会うわけじゃないしな。 風早達に瀬名とのことをどこまでカミングアウトすべきか悩んでいたが、あまりの暑さに思考力が停止した。 サンサンと輝く太陽に負け、流れる汗をそのままに待ち合わせ場所であるファミレスへと向かう。 店に到着し、入口であるガラス扉を押して中に入ると、既に風早と林田は席に着いており、俺に気付いて手招きしてくれた。 「羽柴、こっちこっち」 「おー」 俺も片手を上げて応えた。 くっそー何なんだ、本物のイケメンは涼しげだなー。 風早も林田も汗一つかいてない様子でサラッとしてる。何で俺だけこんなにベタベタしてんの、不公平だっ。声に出すのは悔しいから心の声は飲み込んで、それよりも、俺はもっと大事な話があったはず。 とりあえず喉がカラカラで、ドリンクバーを頼んだ。

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