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第50話

一気に喉を潤したくて、いつもならばドリンクサーバーからコーラなどの炭酸系を注ぐのだが、この時ばかりは冷たいウーロン茶をグラスに注いだ。 喉をごくごく鳴らして体内へ烏龍茶を流し込む。 「ぷはぁっ」 もちろん一気飲み。 喉は潤いエアコンの冷風も効き過ぎるくらいに冷たくて、生き返った気分だ。 風早と林田は早速夏休みの課題の話をしていた。 「何、もう課題やってんの?」 「ああ。夏休み後半は楽したいからなー」 「それわかるわ」 俺も会話に加わると、二人はこっちへ向き直る。丸いテーブルと、それに沿った形の丸いソファーで、端に座っていた俺は二人の間に挟み込まれた。 「で、どうした羽柴」 ぐっと二人に詰め寄られ、どこから話すか考える。 「えーっと……、同じクラスに八雲いるだろ」 「ああ、あの白いやつね」 林田の中で八雲は白いやつらしい。 確かに白くてひょろくて、もやしみたいだ。 「そう、それ。そいつが教科書破られたり、体操着にペンキ付けられたり……早い話イジメ被害にあっていて。んで俺がやったんじゃないかって、疑われてんの」 「何で羽柴だって疑われたんだ」 「それは、その八雲の持ち物ん中に俺の生徒手帳が入ってたから」 「羽柴、やったのか?」 林田は真面目な顔で聞く。 俺は慌てて頭を振った。 「違う、俺やってない。だから、誰かに嵌められたんだと思う……っていう相談」 「にしても不自然だな。羽柴は別に八雲と親しくないだろ。教室でも喋ってるの見たことないし」 「うん。そうなんだけど……。多分、俺と八雲が共通して付き合いのあるやつが関係している気がしないでもなかったり……」 瀬名の名前がすんなり出せない。 俺ってかなりのヘタレだ。 どうしようかと考えていると風早が「もしかして」と口を開いた。 「それって瀬名がらみの話?」 ずいっと風早が怖い顔してこちら側に身を乗り出す。 「や、……違う、ような……違わないような……。っていうか、まぁそうなんだけど」 「わかんないな。どっちだよ」 林田が少し苛ついた口調で言った。 確かにこんな風にしとろもどろに返答されたらイラッとするよな。 正直に話してしまえば俺だって少しは楽になるってわかってるんだから。 素直になれよ、自分!と自分にエールを送る。 「なぁ、ちょっと前から気になってたんだけど、羽柴と瀬名って、何か繋がってるよな」 「え、何だよ急に……」 うぐっ。風早鋭い。 「急にじゃない。席替えしてから、羽柴は瀬名をいつも見てないか?意識し過ぎている、ような……」 う……嘘?そんなあからさまなこと俺してたのか? とは思うけど、そう言われるとわからない。だって、あんなことそんなこと……ネコ耳付けてやっちゃってるし。エロいあれこれを思い出したら恥ずかしくなって顔が熱くなった。 「顔が真っ赤だよ羽柴。ふーん、やっぱりなぁ。そうかぁ。なーんか怪しいと思ったんだよな」 風早が目を細めてこっちを見る。 林田は少しの間を置き、飲んでいたコーラをぶっと吹いた。 「最近羽柴は情緒不安定な恋する乙女みたいだし、瀬名もしょっちゅう羽柴を見てる気がしたし。まぁさすがにあの瓶底眼鏡じゃ視線の細かい行方まではわからんけど。それに瀬名は無頓着だった外見を急に気にし始めた様子で、もわーっとしてた髪はサラサラにブローされてるし無精ヒゲも無くなってたしな。急に変わりすぎなんだよね。いやー、まさかとは思ったけど当たってたか。俺の観察眼すごいね」

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