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第56話

「羽柴、荷物重くない?貸して?」 にっこり笑って俺の荷物を寄越せと言う。はっきり言って、違和感たっぷりで気持ち悪い。 顔が引きつった。 「え、急に何だよ」 「まぁまぁ、いいから。これも作戦作戦」 「ん?作戦?」 作戦ということは八雲の私物ずたずた事件の犯人捜しということで間違いないんだろうか? 何だかよくわからないまま、あゆみちゃんと琴音ちゃんという本物の女子が側にいるにもかかわらず、俺は風早からレディファーストの待遇を受けることになった。 「案外バッグ軽いね。ちゃんと水着持ってきた?」 「え、あ、うん。水着水着ってさっき永谷にも聞かれたぞ。肝心なもの忘れるわけないだろ」 「まぁそうだよな。あ、階段だから足元気をつけて」 そう言って風早は俺に手を差し出す。 ……何ですかこの手は。 怪訝な表情で風早に視線を送る。すると風早の口元が「握れ」と動いた気がした。 え、え~……。俺そういう趣味ないんですけど……。 躊躇していると強引に手を取られ、……風早の体温が何か気持ち悪い。何の罰ゲームだこれ。 何故か一緒に手を繋いで階段を降りる。 「なぁ……」 これって良からぬ誤解を産むんじゃない?って言おうとしたが風早に遮られた。 「水着、何色?」 「え、あぁ、ピンク」 目立ちたくて蛍光味がかったピンクを選んだ。カッコ可愛い系を狙う俺にピッタリな色だろ。 「ピンクかぁ、色白で可愛い羽柴にピッタリの色だな。早く見たいなぁ」 「……」 どこのエロ親父だよ! 心の中で突っ込んで、風早を見ると妙にイキイキとした顔してやがる! 何なのほんとに……。 そして階段を降りると、すかさず俺の腰に手を回す。当然だが、ぞぞっと背筋に悪寒が走った。 永谷と林田は俺達の前を行くので俺と風早を見ることが出来ない。けど、後ろには琴音ちゃんや瀬名達がいる。 絶対に見られていると思った。ホモ確定って感じじゃないか!? 電車は既にホームで出発時刻まで待機中。特急電車である車内は向かい合わせに二人掛けの座席が並んでいて、俺は風早に手を引かれたまま有無を言わさず隣に座らされた。 すかさずドカッと正面に瀬名が座る。その隣に八雲が座り、「ほらな」、と風早が小声で囁きニヤリと悪そうな笑みを浮かべた。 何が「ほらな」なんだ!? 風早の考えていることが全くわからない。やけに楽しそうにしているのが気に入らない。

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