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第57話

そして。正面にドッカリ座った瀬名から漂うのは威圧感。 身体がデカいから目の前で足を広げ腕組みする姿はいくらオタクの風貌でも印象が悪い。 八雲はお行儀よく足を閉じ隣に座るが、こっちを睨み付ける姿は瀬名に仕える番犬みたいだ。犬種はチワワってとこか。 怖くねぇっての。 八雲のことは被害者とはいえ、俺がやったと濡れ衣を着せられてる以上、優しく普通に接するなんて無理な話で。 チッと 八雲を見て舌打ちした。 「落ち着けよ」 風早は俺の耳元に口を寄せて囁く。落ち着けるかっ!と反論したかったけど、太腿を撫でられる感触に悪寒が走る。 風早の手がわざとらしく俺の腿をさするので、思わず身じろぎした。 「……っ」 ううぅ~気持ち悪い気持ち悪い。これ何の罰ゲーム!? 風早は何食わぬ顔で俺を触るけど、視線は瀬名に向かっている。それを見せつけるように。 「……」 おもむろに瀬名の手が伸びて、俺の腿を撫でている風早の手を掴んだ。 「瀬名、何?」 「……」 無言で睨み合う風早と、瀬名。瓶底だけど多分これは睨み合いだ。 ひぃ~……こ、こわっ。風早と瀬名の間には目に見えない火花が散っている。 険悪な雰囲気の中、電車は発車した。 この空気、イヤ過ぎる……! 居たたまれなさに耐えられず、何故か俺も手を出した。風早の手を掴む瀬名の手に自分の手を重ねてみたのだ。 「い、行くぞーっ!おおぉ~!………………な、なんちゃって……」 しん……とその場が静まり返る。 更に空気が凍りそうなことしちゃったか……。取り敢えず八雲の冷たい視線が痛い。 瀬名が俺の手を見つめ、そして俺を見る。何か言いたげだが、無言だ。 あ、そうだ! 駅前のガチャガチャでゲットしたももにゃん!瀬名いるかな?ついでにこの空気もリセットアンドリフレッシュ! 俺はジーンズのポケットに手を突っ込みM字開脚ももにゃんを引っ張り出す。 「じゃーん!瀬名、これどうよ!」 「あ……」 瀬名の意識が完全にももにゃんへ移る。よし! 「欲しい?やるよ?」 「……ありがとう、羽柴くん」 瀬名の手が風早から離れ、こっちへ伸びる。 その手はももにゃんのキーホルダーをスルーして俺の手首を優しく掴んだ。 大きな手は俺の手首を軽く一周する。 あの手が俺の身体を暴いて、俺をダメにしたんだ。 こうして肌を合わせると瀬名に触れられたことをどうしても思い出してしまう。 俺はぼうっと瀬名を見ていた。 瀬名に掴まれた俺の手は、それからゆっくり瀬名の口元まで運ばれて……。

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