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第58話
弾力のある瀬名の唇は俺の手の甲に押し付けられた。慈しむように優しく、ちゅっと。
キス、された。風早も、八雲も見ている前で……。
俺は頭が真っ白になった。
「~~~っっ……!!」
数秒遅れて羞恥心がどわーっと押し寄せる。穴があったら入りたいって、これだよね!
風早も八雲も口を開けてそれはもう本当にポカンとした表情で俺と瀬名を食い入るように見ている。
俺は掴まれた手の行き場に困って、瀬名を見た。瀬名は真直ぐに間違い無く俺を見つめてた。……瓶底眼鏡で。
「せ、瀬名っ!ちょっと!!向こうに行こう!!」
突然八雲が我に返り瀬名を引っ張り無理矢理席を立たせた。瀬名は八雲に半ば引きずられるようにこの車両から去って行った。
「……八雲はどうなんかねぇ」
二人の後ろ姿を見て風早が呟く。
「どうなんかって……何」
ふと気付いた。 「あ、ももにゃん」
俺の手にはももにゃんが残されたままだった。
「羽柴、瀬名ってタラシだったの。手の甲にちゅって、王子か!」
「いや、それは、俺に聞かれても……」
無言の俺を風早が覗き込む。
「で、羽柴は顔が乙女だよ」
「&#@*※◎?■!?」
声にならない声を上げ、両手で顔を押さえた。 か、帰りたい……!
「そうだ、林田達は!?」
「あぁ、林田には永谷とあゆみちゃん達連れて指定席とってもらったから、同じ車両にはいないよ」
「あ、そう」
ほっと胸を撫で下ろす。
「河野と冬水田はその辺に座ってんじゃないか」
キョロキョロと辺りを確認すると、河野組は男二人寂しく二人掛けで、でも楽しそうに弁当を食べていた。
良かった……。
「まぁこれでわかったことは、八雲は羽柴と瀬名の関係に気付いてるってことだな。最初から敵対心、警戒心剥き出しで分かりやすいったら」
風早が状況分析する傍らで、俺の手はまだ熱を帯びたままだった。
「羽柴、お前そんな物まで買っちゃって。相当瀬名にラブなんだな。あいつの瓶底眼鏡外してやりたいわ」
ももにゃんのキーホルダーが俺の手に揺らされ宙に舞う。
「や、眼鏡は関係ないし」
「前々から思ってたんだけど、あの無駄な肉のない身体、どこで作ってんだろうな。全体的な雰囲気はいかにもオタクーって感じだけど、よく見れば顔のパーツ一つ一つはすごく整ってる気がする。あいつ、実はすごく格好良いんだろ。羽柴は結構面食いだもんな」
「……」
風早の読みは完全に当たっていて、俺は黙ってしまった。
それにしたって、瀬名に当てつけるように俺と風早がイチャイチャして何が解るっていうんだろう。
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