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第59話
「まぁ、あれだ。瀬名にちょっかいかけてみて仮に八雲が瀬名に恋愛感情を持っていたとしたら、イジメの件は八雲の狂言って線が濃厚だな。羽柴はこんなに悪いヤツだと瀬名に思い込ませたくてやった。もしくは、女関係で恨まれていて普段から羽柴と仲の良くない瀬名達を利用して、嫌がらせでイジメの犯人に仕立て上げられたか……。だとすると、あゆみちゃんと琴音ちゃんがやったという線も捨てきれない」
「あぁ……」
そういうことか。俺はいくら考えても解らなかったのに、風早ってば探偵みたい。
「俺さ……結構やな奴だったんだな」
ボソッと呟くと風早が笑う。
「女の子の扱いに関しては確かに誉められたことじゃないけど、お互い合意の上なら別にいいんじゃない?ただ、女子はそこに感情が付いてくるから厄介だよな。でも反省したんだろ?」
「……うん」
それはもう、存分に。
「だったら今の恋に全力になればいい」
「風早……お前って何か先生みたいだな」
「そう?俺教職向いてるかな~」
はははと笑う風早はめちゃくちゃ爽やかで、こいつに想われてる林田はきっと幸せだろうなと思う。
「風早と林田ってどういう経緯で付き合うことになったの?」
俺だけ色々暴かれてズルいと思ったので単刀直入に聞いてやった。
「それは羽柴の恋が上手くいったら教えてやるよ。さ、もーちょっとアイツらにいちゃこら見せてやんないとなぁ」
「ずりぃの」
風早はふふんと笑う。何でこんなに楽しそうなんだろ。
それよりも、いちゃこらまだやらなきゃいけないのか……。
ちょっと心が折れそうだ。
やっぱり恋愛感情抜きにして、同性同士でイチャイチャは辛い。
……瀬名ならいいのに。
「あ、ほら景色変わってきたぞ」
「海……」
昇りかけの朝日が水面に反射してキラキラしてる。きれい……。目を奪われる。
……この景色を一緒に見ることが出来たなら、瀬名は何て言うだろう。
結局、瀬名と八雲はあれから目的の駅に到着するまでの約一時間、俺達の前に戻ってくることはなかった。
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「やったー、着いたぜー!にしてもあちぃな!」
辻が島駅。その昔、悪事を働く鬼が暮らしていた地なのだとか。
とにもかくにも、到着である。
駅の外はまだ早朝であるにもかかわらず蒸し暑い。海から漂う塩の香りが身体を包む。そして相変わらず永谷は元気でうるさかった。
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