61 / 86
第61話
「お、そんなエロい声出すんだ羽柴。可愛いなぁ」
「……」
風早のエロオヤジ作戦はまだ続くんだ……。
冷たい視線を送りそうになるところをぐっとこらえて、ちょっと困った表情を浮かべる。
「も~、くすぐったいの苦手なんだよ。やめろよな」
「はいはい、乗った乗った」
「……!」
言いながら今度はポンポンと尻を軽く叩く。
意味なんてないのは分かってるけど、何だか痴漢でもされてるみたいでイヤだ。
しかし、いちいち反応していたらきりがないので無視することにした。
車内へ足を踏み入れる。
「わーお、すっげえ!」
永谷のデカイ声。
いや、でも本当にすごい。
大物芸能人とかイメージしてしまいそうな車内だ。
設置されているもの全てが高級品なのだろう。素材の良さがソファーの光沢や絨毯の毛並みなどから伝わってくる。
中央にはミニバーのようなカウンターまであってピカピカに磨かれたグラスがガラスケースに収納されている。
林田があゆみちゃんと琴音ちゃんを車窓の側へ案内し、林田と永谷で二人を挟むようにして座る。
俺は永谷の隣に、その横に風早が。そして対面に瀬名と八雲達四人が腰掛けた。
瀬名を除いて八雲達は皆一様に車内をキョロキョロと眺めるが特に騒ぐ様子もなく、河野なんて直ぐにカバンからアニメ雑誌を取り出した。
瀬名達の様子を何となく眺めていると風早が俺の手を取る。
「……ん?何風早?」
「羽柴の手って割と小さめだな。指は細いしキレイ」
「お……おぅ」
また始まったか。
もう何と返事していいものやら。
抵抗する気もおきないので、黙って手を風早にいじらせたままにしておいた。
やがてゆっくりとリムジンは発車した。
それにしても。
窓の外の景色を見て楽しんだり、皆でゲームしたりして移動時間を過ごすのが当たり前と思っていただけに 、今の状況が辛い……。
林田達は永谷を中心に琴音ちゃん、あゆみちゃんの四人で盛り上がり、俺は風早との芝居がかったイチャラブごっこでげんなりとしていた。
俺はそんな中、強い視線を感じていた。
瀬名だ。瀬名がこっちを見ているのがわかる。
どっかり座って腕組みしたまま、顔の位置はこっちへ向いている。
八雲は隣で瀬名に何か話かけつつ、時折俺を睨む様子を見せた。
「あと三十分程で到着致しますよ」
藤巻さんの声で更に気分が落ちた。
あと三十分……、長い……。
走り出してしばらくしてから、あまり喋らないニキビの冬水田が口を開いた。
ともだちにシェアしよう!