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第62話
「……その、風早君と羽柴君はもしかして付き合ってるのかな」
ピタッと風早の手が止まった。
ほら見ろ誤解されたじゃないか~!どうすんだよ!そんな思いを込めて風早に顔を向けると、風早は何故かニッコリと微笑んでいる。
俺には不敵な笑みにしか見えないが。
「そう見える?」
「あー、勘違いだったらごめん、謝るよ。でも自分そういうのに偏見ないんで聞いてみた」
「へぇ、理解あるんだ。じゃ、想像に任せるよ」
風早はそういうと、止めていた手を再び動かし俺の指に風早の指をしっかりと絡める。
「ひ……!?」
何これ、恋人繋ぎ!?
何かもう口から魂抜けそう……。
俺は、ハハハと乾いた笑いを残し、あとは寝たふりを決め込んだ。
「全くもう、冬水田は腐男子だな本当に」
「いや~可愛い系のチャラ男受けってなかなかいいなと思ってね」
「それよりこれ見て。林田君の別荘から少し離れてるんだよ、歴代魔法少女集結のコスプレ海のいえミルキーハウス」
「ほほう」
「え、どこどこ」
「この地図だと隣のビーチみたいだね」
河野と冬水田の話に八雲も加わり、こいつらはこいつらなりに楽しんでいるようだ。 話を理解するのは難しいけど、俺にはあまり関係なさそうだし、こいつらだって俺と風早に対した興味もなさそうだった。
風早にガッチリ固められた手をじっと見て溜め息を吐く。
相変わらず瀬名の視線は俺達にガッチリ固まっていて、それも居心地の悪さを増幅させた。
あーもう無理。寝る!
「着いたら起こして」
「いいよ」
「……」
俺の頭は無理やり風早の肩に乗せられた。カップルか!と思ったけど、寝不足だったのとリムジンの揺れが心地好くて、すぐに深い眠りについた。
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ザザー…… ザザー…………
小豆をザルで転がすような、引いては寄せる波のような音がする……。
「到着でございます。皆様方、お忘れ物のないようお気をつけくださいませ」
「……っは」
藤巻さんの声で目が覚めた。小豆の音じゃないよな、これ。
鼻空を潮の香りが通り抜ける。
海だ。
「起きたか?よく寝てたな羽柴。お前頭重いな。めっちゃ肩痛い……」
「お前が無理矢理俺の頭乗せたんだろ」
風早は恨めしそうに俺を見るが、俺だって別に寄りかかりたくてやったわけじゃない。
意外と寝心地の良い肩だったけどな。
皆荷物を持って順にリムジンから降りていく。
俺も降りようと腰を上げた時、瀬名がこっちに手を伸ばした。
「ん?」
瀬名の親指が俺の唇を拭うように滑る。
「羽柴君、よだれ……」
「え、あ、よだれ?」
瞬時によだれを拭ってくれたんだとわかった。けど、どうリアクションすればいいの。まさか人のよだれを拭うやつもそうそういない。
ここは礼を述べるべき?
とか考えていたら、瀬名はその指をペロリと舐めた。
「……っ!」
予想外の出来事に目を丸くしていると、それを見ていた八雲が瀬名の脇腹に手刀を入れる。ドスっという効果音が聞こえた気がした。
「もうっ、瀬名!」
瀬名は八雲にぐいぐいと押され降りていった。
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