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第67話
永谷に手伝ってもらい、ピザやサイドメニューを運ぶ。
朝は軽く済ませてきたので、凄く腹が減っていた。
それは周りも同じだったようで、食べ盛りの男子ってもの凄く大食漢だ。
ピザはあっという間に無くなった。
「御馳走様でしたーっ!」
「林田、ごちです」
「後で清算しような」
「金持ちのクセに、ケチか!」
俺たちのやり取りを見て女子が笑う。こういうの、いいな。青春って感じ。
「もう一回海行こうぜ~っ!」
「おぉ」
食べ終えて、まだ海水浴をしようというこのタフさ。俺って元気だなと自分自身に感心する。
風早と林田は、オイルだか日焼け止めだかを塗り合っていて二人の世界に浸っている。
二人が付き合っている事実を知っている俺からすれば、オイルの塗り合いってエロイと思ってしまう。
(いいなぁ、あぁいうの。俺も瀬名に……)
瀬名の節張った指先で背中を撫でてもらいたい。
きっと気持いいだろうな。
そんなことを想像したところで、それが叶うはずもなく、俺と永谷はビニールの小さなボートに空気を入れた。これに乗って沈んだ気持を盛り返す為に遊ぶのだ。
あゆみちゃんと琴音ちゃんは、エステに行くそうで、夕方まで戻らないということだった。
あゆみちゃんは俺に振られた後、普通にピザを平らげ、平然としているように見えた。
失恋したってのに、もの凄く逞しいと思う。女の子って基本、メンタル強いよな……。
羨ましい。振った俺の方がヘコみそうだっていうのに。
「このボート二人乗りいけるよな」
「あー多分。乗ってみないとわかんねー」
永谷の私物であるビニールボートは、ペラペラのビニールなだけに頼りない。
でも面白そうだという興味が勝る。
「林田、このプライベートビーチって隣のビーチとの境界線とかあんの?」
「ん?境界線?……多分、あの小さい岩礁の辺りまでだと思うが。あの辺は深いからやめた方がいいと思う」
「そうなんだ……。そう言われると、なぁ」
余計行ってみたいじゃん。
ちらっと永谷を見ると永谷も俺を見てにや~っと笑う。考えてることは一緒だった。
「あれ、風早寝ちゃったの?」
「そうなんだよ。人に日焼け止め塗らせておきながら全く……」
林田はぶつぶつ言っているが、本気で不満そうには見えない。
やっぱりこの二人はラブラブなんだろう。
風早はビーチチェアにうつ伏せで、その身体が規則正しく上下に浮き沈みする。
「俺と羽柴でちょっと遊んできてもいい?」
永谷が言った。
「あぁ、いいよ。元々俺は海に入る気なかったしな」
そういう林田は水着の上に終始パーカーを被ったままだ。暑くないのか!?……涼しげに見えるのは所謂イケメンのなせる技なんだよな、きっと。
「そうなんだ。んじゃ、ちょっと行ってくるなー」
俺と永谷は林田に手を振って、ビニールボートを持って海に入る。
「やっぱりさ~ちょっと冒険したいよな」
「だなー。このボートで隣のビーチまで行っちゃう?」
「おお、それいいね!」
永谷は親指立ててにっかり笑う。俺もつられてにっかり笑った。
ザバザバと入水し、腰のあたりまで海水に浸かったところでボートを浮かせた。
バランスが取りにくく、ボートに乗るだけでも何度もザバンと海へ落ちる。
それがまた面白い。永谷と、手と手を取り合いやっと乗れた所で、また永谷が落ちた。
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