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第72話
「瀬名は二人きりじゃ理性保たないからってさ。多分河野達の所じゃないか」
「そ、そう……」
理性って……。そんなこと言っちゃうのかアイツ。恥ずかしい……!
俺はちゃんと持ってきたTシャツに着替えていて、下もハーフパンツと下着を履いていた。瀬名がやってくれたんだろう。
「瀬名って相当な男前だったんだな。俺かなり驚いた。あれはスゴいわ。それに羽柴、お前愛されてんな」
「え、あ、愛されてって……うん」
照れくささでぽわっと顔が熱くなった。傍から見てそんな風に見えていたなんて。
それに俺だって瀬名の顔面を初めて見た時は、死ぬほど驚いたんだ。
きっと皆だって超驚いたに違いない。
それはそれで本当の瀬名を知られてしまい何とも勿体ないような、でも見せびらかしたいような複雑な気持ちになる。
ところでどうして瀬名が俺を助けることができたのか。
それは俺たちが遊んでいたビーチに瀬名が戻ってきたからだ。
どうして?
「なぁ、風早は何で瀬名がこっちのビーチに戻ってきたか知ってる?」
「羽柴に伝えたい事があって……っていってたけど、帰ってきてすぐにお前があんな事になったからな。で、どうなの、瀬名とは何か進展あったのか」
伝えたかった言葉は貰った気がする。
「うん。好きって言われた」
「他には?」
「他にはって……エロいことした」
「んむっ!ちょっ、想像するからやめてくれ」
「あぁ、わり。でも俺は自分の気持ち、ちゃんと伝えられたのかな……」
俺の好きは、ちゃんと瀬名に届いたのだろうか。
体を張っていつも俺を助けてくれる、俺の大好きな瀬名。
「今日は俺達とは別に瀬名と帰ったら?」
風早が気を利かせて提案してくれた。
「いいの?」
「あぁ、皆には上手く言っておくよ」
「うん、さんきゅーな」
「おぅ」
朝食はあゆみちゃんと琴音ちゃんの女子チームが自炊してくれて、白米に味噌汁、卵焼きや香の物で和食を楽しんだ。
やっぱり和はいいな。なんか、ほっこりする。
そして。
昼前に林田の別荘を発つことになり、行きと同様、藤巻さんがリムジンを運転してきてくれた。
皆それぞれ荷物を持って外に出る。
女子二人以外は俺達の事情を知ったみたいで、別荘前で別れの挨拶をした。
「トモくん一緒に帰らないの?なんで~?」
「いやー、実は俺、これにはまっちゃってさ。隣のビーチにそのコスプレ店員がいる海のいえがあるっていうんでどうしても行ってみたくてな」
ジーンズのポケットから瀬名に渡しそびれたエロいももにゃんキーホルダーを出し、指にかけてぷらぷらさせて見せた。
「……うそ、何それドン引く。あゆみ、ほら見てよ、トモくんってこういう奴なんだよ、本当は」
琴音ちゃんがあゆみちゃんの気を引きたくてそんなことを言っているのがわかる。
それがとても可愛く思えた。
「で、二人でどこか行くのね。……風早君じゃなかったんだ」
「え、何の話、あゆみ!」
「あぁ、何でもない。羽柴君もオタクの仲間入りしちゃったのか~残念。あたしオタクに興味ないから」
「そうこなくちゃ!」
二人は仲良さそうに、腕を組む。何とも微笑ましい。
皆順にリムジンに乗り込んで行くが八雲だけは俺の前で立ち止まる。
白い顔が更に青褪めている。八雲は下唇を噛んで意を決したように俺へ顔を向けた。
なんだ、やるのか、この野郎!
「羽柴君……、ごめん、僕、羽柴君の生徒手帳盗った」
「え……」
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