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第73話
八雲が?何で?
俺は口を開けたまま、八雲をじっと見据えた。
怒りよりも驚きと疑問が前へ迫り出して、虚を突かれたように間抜けな顔でフリーズする。
「え……と、どこから説明していいだろ……、んっと……。本当はこのタイミングで言うべきことじゃないってわかってたけど、ここで言わないともう羽柴に顔向けできない気がして……」
八雲がしどろもどろになりながら説明しようとしている。
今までの八雲とは明らかに様子が違っていた。
俺に向けてきた敵意のような嫌悪を抱いた顔ではなく、必死に弁明しようとする姿は、怒られて言い訳している子供のようだ。
この時、俺の中でわだかまっていた八雲への気持ちは解れ始めていた。
「八雲、羽柴君には俺が説明するから。皆待ってるし乗りなよ」
リムジンは八雲待ちだった。それを見兼ねて黙って俺達を見ていた瀬名が横から口を挟む。
「え……でも……」
八雲は俺と瀬名を見比べるようにして視線を投げかけてくる。
俺も瀬名の説明を聞ければいいやと、八雲を許す気持ちになっていた。
「八雲、俺も瀬名から聞くことにする」
「……うん。とにかく、本当にごめん!すごく嫌な思いさせたよね。僕あんなことしなきゃよかったって後悔してる」
何かやむを得ない事情があったんだろう。きっと。
「うん、いいよ」
「ほんとに、ごめん」
八雲は俺に頭を下げて、今にも泣きそうな顔で車に乗り込んだ。
その顔で八雲が本当に反省しているのだとわかる。
「じゃ、また二学期な~!!」
手を振ってリムジンを見送って。
俺と瀬名はお互い顔を見合わせた。
「眼鏡は海に置いてきたんじゃねぇのかよ」
「……スペアは必ず持ち歩いてるんだ」
横にいる瀬名はいつものモサいオタクルックに戻っていた。
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