4 / 9

第4話

土曜日になり、蒼介に指定されたバーに向かって歩いていた。 蒼介のお願いとは、合コンの人数合わせだった。五対五でセッティングされていたが、一人が急遽、出張になってしまったのだという。 見積書でのお買い上げを条件に、樹はそのお願いを承諾した。 まさか、樹がゲイであるとは思っていない蒼介は、 「いい子いたらお持ち帰りしてもいいから」 と、悪戯っ子のような顔をしていた。 女性に興味ないので大丈夫です、などど言えるはずもなく、笑って誤魔化した。 指定された店に行くと、個室に案内された。中に入ると、樹に気付いた蒼介が手を挙げた。 初めて見るつなぎ姿ではない蒼介は、薄いブルーのポロシャツ姿。露わになっている首筋が妙に色っぽく見えた。 「水無瀬樹くんです。イケメンでしょ?」 蒼介に紹介され、樹は顔を赤くしながら頭を下げる。 合コンらしく席は男女交互になっており、蒼介は目の前の席に座っていた。 人見知りの樹は、終始女性たちに翻弄された。 「水無瀬くんって、年いくつ?」 隣の女性に聞かれ、 「24です」 「わっかーい」 「蒼介さんたちは、いくつなんですか?」 そう言えば、年を知らないと思った。 「オレ?つーか、ここみんな三十歳」 もっと若いかと思った樹は、少し目を丸くした。 「あ、今結構オッサンだと思ったでしょ?」 「いえ……少し」 そう言うと、このヤロー、と蒼介の手が伸び頭をクシャリとされた。 樹はずっと目の前の蒼介を目で追っていた。ムードメーカーらしい蒼介は、いつも穏やかに笑い、優しい人柄が現れているのか、周囲に気を使っているのがわかった。樹の人見知りを察知したのか、蒼介が樹にさりげなく気を使ってくれているのを感じた。 (優しい人だ……) その優しさに、樹の心が解れる。 結局、二次会まで付き合わされ、三次会にも誘われたがさすがに断った。 「じゃあ、オレも帰るわー。悪いんだけど、水無瀬くん、送ってってよ」 「いいですけど、三次会いいんですか?」 「うん、いいや。もう眠い」 そう言って、大きく欠伸をした。 「スーツじゃないと、なんか新鮮」 コインパーキングまでの道を、並んで歩いていると不意に言われた。 「かわいい」 頭をクシャリとされ、条件反射で思わず目を瞑ると、真っ赤になった顔を暫く上げる事ができなかった。 車に乗り込むと、 「会社に迎えば?」 「いや、オレ一人暮らししてるから、家あそこじゃないんだ」 実家から少し離れた所で、アパートを借りているという。 アパートに着くと、 「家寄りなよ」 そう言われた。 「え?でも……」 「水無瀬くんと話がしたいんだよ」 いつもと違う真剣な眼差しを向けられた。

ともだちにシェアしよう!