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第7話
会社に戻る途中、空が真っ黒になり雲行きが怪しくなってきた。少し残業して会社に出る頃には、本降りの雨になっていた。
雨を見るとあの日、蒼介と出会った事を思い出す。
少しぼうっと走っていると、雨でハンドルが取られた。左の前輪が縁石にぶつかり、ガタン!と衝撃が車に走った。
慌てて傘をさし、車から降りタイヤを見た。縁石に乗り上げずには済んだが、タイヤがパンクしてしまっていた。
「最悪……」
工具を出そうとトランクを開けた。
傘をさしたままやろうとも思ったが、結局邪魔になるだろうと、傘はしまった。
あっという間にずぶ濡れになる。
スペアタイヤと工具を取り出すと、パンクしたタイヤの前にしゃがみ込んだ。
その時、樹の車の前に白いバンが止まった。
「どうした⁈パンクか⁈」
傘をさし、降りて来たのは蒼介だった。
「蒼介さん……」
「うわ、ペッチャンコだな。オレがやってやるよ。おまえこれ持ってろ」
そう言って、傘を渡された。蒼介が濡れないように傘をさす。
「縁石にぶつけてしまって……」
「こりゃ、修理は無理だなー。横が裂けてる」
手際良くタイヤ交換をしている蒼介の横顔を見つめた。
久しぶりに蒼介を見た瞬間、ドキドキと心臓の鼓動が早まり、ぎゅっと目を閉じた。
「終わったぞ。どうする?うちの会社来るか?そんなびしょ濡れじゃ、家まで帰るのも嫌だろ?実家のシャワー貸してやるよ」
ここから、ほんの1キロ程先に鳴宮自動車はあった。樹のアパートは20キロも先だった。
「でも……」
「風邪引くぞ。行くぞ」
そう言って、蒼介は運転席のドアを開けてくれた。
蒼介のバンの後ろを走り、鳴宮自動車に着く。
「すげー雨だな!」
車を降りると、蒼介は右手で傘をさし左手で樹の肩を抱いた。
蒼介に触れられている肩が熱く感じた。
玄関に入ると、
「タオル持ってくるから待ってろ」
蒼介は家に上がると、樹は玄関口で蒼介が戻るのを待った。
蒼介が戻ると、言われるまま、浴室を案内された。
シャワーを浴びながら、蒼介の事を考える。
きっと、自分は蒼介が好きだ。だが、それを打ち明ける気はない。蒼介には幸せになって欲しい。蒼介の幸せを願うなら、自分は傍にいてはいけないのだ。
シャワーを止め、脱衣所に行くとバスタオルとスウェットの上下と新しい下着まで置いてあった。
あとで買って返そう、そう思いそれを身につけた。
テレビの音を頼りにリビングに行くと、蒼介はソファに座りテレビを見ていた。
「まぁ、座ってろよ。メシ食べて行けよ」
「でも……」
「どうせ、洗濯終わるまでは帰れないんだからよ」
「はい……あ、下着まですいません。買って返します」
「ああ、いいよ。どうせ、サイズ合わなくて履けないやつだから」
タバコを燻らせている蒼介は、片眉だけを上げた。
「今日、社長と奥さんは?」
「組合の旅行行ってる。だから、気兼ねすんな」
そう言って、ふわりと笑った。
その笑顔に気恥ずかしくなり、目を伏せた。
「オレも風呂入ってくるわ。テレビでも見て待ってろ」
蒼介はリビングを出て行くと、落ち着きなくテレビに視線を向けた。
蒼介と一緒にいると居心地が良く自然と穏やかな気持ちになる。
荒井から貰った苺を思い出し、自分の車から苺を取り戻った。
雨は小雨に変わっていた。
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