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第8話

玄関に入ると肩からタオルをかけた蒼介がいて、思わずギョッとしてしまった。 「びっくりした……」 「いないから帰ったのかと……思った」 少し泣きそうな顔を浮かべているように見えた。 「苺、今日荒井さんにもらったんです。食後にと思って」 「なんだ……」 ホッとしたように、苦笑いをしている。 テーブルに座ると、ドライカレーを出された。 「上手いだろ?母ちゃんのドライカレー」 「はい、凄く美味しいです」 樹は思わずその味に、ほっとする。 向かいの蒼介は、缶ビールを空けていた。 食事が終わると、 「部屋行こうぜ」 そう蒼介に言われた。 「部屋?」 「前使ってた部屋。ゲーム対決しようぜ」 洗濯が終わる間、まだ待つしかないようだったが、蒼介と二人きりというのは少し気まずかった。だが、無下に断る事もできず大人しく二階に上がると、突き当たりの部屋の扉を開けた。 テレビと布団だけがそこにあった。 「アパート帰るの面倒な時、たまに泊まってるんだ」 テレビをつけ、ゲームの電源を入れる。そのゲームは小学生の頃良くやっていた、格闘ゲームだった。 「懐かしい……」 「だろ?やろーぜ」 二人は並んで座ると、操作するキャラを選んだ。 やり出すと夢中になり、思わず笑いが溢れる。 「オレが勝ったらオレの言う事きけよー」 「ええー?」 「ほれほれ、もうゲージないぞ」 一瞬余所見をした間に、一気に畳み掛けられてしまった。 「ずる……」 「さて、何にするかなー?」 わざとらしく、天井に目を向けていたが、こちらに目を戻した顔は、いつものヘラリとした表情がなかった。 「キス……していい?」 樹の動きが止まり、目を見開いた。 蒼介の顔が近付いてくると、触れるだけのキスをされた。触れるだけのキスなのに、樹の心臓は口から出そうなくらい大きく鳴りは始めた。 「もう一度、勝負しませんか?」 「いいよー」 先程とはうって変わり、いつもの蒼介だった。 「うっそ、つよ!」 今度は得意だったキャラに変更すると、樹はあっさり勝利した。 「質問に答えてくれますか?」 樹は目を伏せたまま言った。 「何?」 「元カノとヨリ戻すんですか?」 そう言って、目線を上げた。面食らったような蒼介の顔があった。 「なんで……その事」 「荒井さんに聞きました」 関係ない、と言われてしまうだろうか。そう言われてしえば仕方ないと思った。あの時、距離を置いたのは自分なのだから。それなのに、こんな質問をしている自分に呆れてしまう。

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