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第3話

玄関を出ると、男性が立っていた。 黒っぽいスーツを身に纏い、銀縁の眼鏡をかけ、短めの黒髪に切れ長の瞳が印象的な長身の男性。 やや日焼けした肌は、知的なイメージに違和感を感じさせた。 「行きましょう」 男性は側に停めてある白いセダンの乗用車に正明を導いてくれる。 「あの…」 「失礼、挨拶がまだでしたね。私が先ほど電話しました、大津善久です」 善久は口元に笑みを浮かべていたが、神妙な面持ちだった。 「どうも…すみません…」 正明は助手席に案内され、着席するとシートベルトを着用する。 「お兄様から聞いているかもしれませんが、私とは高校時代同じ水泳部に所属して以来のお付き合いで、ずっとお世話になってきました…」 車を運転しながら話す善久。 「こちらこそ、兄がいつもお世話になっていましたよね。兄はよく、あなたのことを話していたんです…」 晃明が部活を辞めると言った時、いつもは物静かで冷静沈着な善久がふたりきりの時には号泣していたこと。 親が学校を経営していて系列で偏差値の高い大学もあり入れる実力もあるのに、自分と同じ国立大に進学してきて一緒のゼミに入って楽しく過ごしてきたこと。 晃明が大学を卒業する時、同じ学校で教師をやろうと言い、それを実現させてくれたこと。 「ヨシの方が何もかも俺よりスゴいのにさ、俺のこと理想の存在なんですって飲み会で酔っ払ったら必ず言うんだよ。面白いだろ?」 正明は、頭に浮かんできた晃明との話しを善久に伝える。 「そうですか…先輩は私のことをそんな風に話してくださっていたんですね…」 善久の声は震えていた。 「何かの間違いならいいのに…」 正明は呟いていた。

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