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第4話

いつも通り出て行った晃明。 そこに感じた違和感が今につながっていることを、正明は認めたくなかった。 しかし、それは叶わぬ願いだった。 病院に着くと、正明は善久と共に霊安室へ案内され、眠っているように横たわる晃明と対面した。 「お兄ちゃん…」 触れた頰の冷たさが、晃明はもう生きてはいないことを教えてくれた。 一度止まった涙が、正明の大きな瞳に再びあふれだす。 そして、あの頃の、両親を失った日の記憶が蘇っていく。 「お父さん!!お母さん!!どうしたの?なんでこんなに冷たいの? なんでずっと寝てるの?」 「正明…」 「起きて!!お父さんもお母さんも起きてよ!!みんなでおうちに帰ろうよ!!」 動かなくなった両親に話しかけ、泣きさけぶ正明。 「正明、お父さんもお母さんも家に帰れるから。姿は見えなくなるけど、ずっと俺たちのこと守ってくれるから」 「イヤっ!!イヤだよ!!お父さんもお母さんもいなくなっちゃったんでしょ?そんなのイヤだよ!!」 「正明!!俺はお前をひとりにしないから!!ずっとお前の傍にいるから!!だからもう泣くなよ!!」 「お兄ちゃん…!!」 自分も泣きたいくらい辛かったはずなのに、晃明は正明を優しく抱きしめ、慰めてくれた。 それでもしばらくは泣き続けて、いつしか晃明の腕の中で眠ってしまっていたあの日。 あれからずっと、兄の存在は正明にとって絶対的なものだった。 「お兄ちゃん!!なんで、なんでだよ!!僕、これからどうしていけばいいの?ねぇ、お兄ちゃん、今日合格してたらお寿司食べに行くんじゃなかったの?こんなウソ、つまんないからもうやめてよ…」 あの時のように、正明は泣いた。 そんな正明の肩を、善久が優しく抱き寄せてくる。 「すみません、私では先輩の代わりになれないことは分かっています。ですが、先輩が大切に思っていた君をいつまでも泣かせたくないんです。微力ではありますが、私に君を守らせていただけませんか…?」 熱い胸の鼓動。 悲しみを、涙を懸命に堪えているのが伝わってくる声。 あの時の晃明のようだった。 「お約束します、私があなたをお守りすることを…」 「大津さん…」 「ヨシと呼んでください。先輩は私のことをそう呼んでいましたので…」 涙を拭ってくれる善久の長い指。 瞳の端には涙が滲んでいた。

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