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第5話

善久の尽力により、正明はその後の手続き等をなんとか終えることができた。 晃明の葬儀は正明と善久だけで済ませ、その後程なくして学園関係者が中心となったお別れ会が行われた。 全てが落ち着いた頃、正明の元に試験の合格者だけに送られる書類が届いた。 晃明の死で、正明は合否を調べることをすっかり忘れていた。 「合格、それは良かったですね。おめでとうございます。これで私も堂々と君を学園に呼ぶことができます」 正明は自分の合否を気にかけてくれていた善久に結果を知らせる電話を入れたのだが、それに対して善久はこんな言葉を返してくる。 「えっ、どういうことですか?」 「先輩が突然亡くなられ、数学担当の教師を補充しなければならない状況でしたので、君が試験に合格したらぜひお願いしたいと考えていました。君が数学教師志望であることを先輩から聞いていたんですよ」 「そんな…僕で大丈夫でしょうか…?」 善久からの言葉は、正明にとって驚きの連続だった。 「君は水泳も得意でしたよね。水泳部の指導もぜひお願いしたいです。それは君だから出来ると私は思います。研修を終えてからで構いません、気持ちが決まったらまた連絡していただけますか?」 「は…はい…」 善久からの言葉に、正明は戸惑う。 (僕で大丈夫なのかな…) 確かに水泳に関しては人に教えられるようになる勉強もしてきた。 ただ、晃明の後に入るということは、兄と比較されることは間違いない。 お別れ会の際に知った兄の人気ぶりが、正明の決断を鈍らせていた。 (でも…ヨシさんの力になれるならやるしかないか…) 兄の死からずっと支えてくれた善久。 そんな善久に少しでも返せるものがあればお返ししたい。 合格者の研修を受けながら、正明はその思いを強めていった。 研修終了後の夜、正明は善久に電話をかけた。 すると、善久は正明を食事に誘ってくれた。 「好きなものを食べてください。ささやかですが合格のお祝いです」 「ありがとうございます」 そこは、晃明が好きでよく来ていた定食屋だった。 正明は晃明が必ず注文していたハンバーグ定食を注文した。 すると、善久も同じものを注文した。 「君もハンバーグ定食が好きなんですか?」 「あ…はい…」 「…やはり兄弟なんですね。先輩も私とここに来る時は必ずハンバーグ定食だったんです」 にこやかな表情を浮かべて話す善久。 「そうだったんですね…」 晃明はハンバーグが好きだった。 正明は兄ほどではなかったが、今日はなんとなく食べたかった。 晃明が善久と来る時もハンバーグ定食にしていたことが面白くて、正明は笑みを浮かべていた。 (お兄ちゃん、いつもここのハンバーグ定食が一番って言ってたけど、誰と来ても頼んでたんだなぁ…) 「はい、お待ちどうさま!ハンバーグ定食2つね!…あら?いつもハンバーグ定食を頼むお兄ちゃんは今日来てないの?」 商品を運んできた女性店員が尋ねてくる。 長年勤務しているベテラン店員なので、2人にとって、顔なじみで会話もするような仲だった。 「あ…あの…」 「亡くなったんです、少し前に」 「まぁ、そんなことになっていたの?まだ若かったでしょう?残念だねぇ…」 正明が言おうとすると、善久が代わりに話をしてくれる。 それに対し、店員は寂しそうに言った。 「あんた、お兄ちゃんがいなくなって大変だろうけど、何かあったら相談に乗るからね。いつでもいらっしゃいよ」 「ありがとうございます」 店員からの言葉は、正明に母親という存在を彷彿とさせた。 そのくらい、正明の心を温かくさせてくれた。 食事を終えると、正明は善久に決めた決意を伝えていた。 「本当に良いのですか?」 「はい、僕はお兄ちゃんみたいな先生にはなれないとは思いますが、ヨシさんのお力に少しでもなれたらと思っています。どうぞよろしくお願い致します!」 「ありがとうございます。君が学園に入ってくれることを先輩も喜んでくれていると思います」 ふたりは固い握手を交わした。

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