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第9話
食事を済ませると、正明は善久に部活棟にある水泳部の部室とプールを案内してもらった。
部室には先に来ていた主任コーチ、笠原誠(まこと)がいて、善久が正明を紹介してくれた。
「ヒロのお別れ会以来だけど覚えてねーよな?オレ、ヒロとは高校時代チームメイトだったんだ。お前の実力も知ってるつもり。生徒たちにイイ刺激、与えてやってくれよ」
大柄でいかつい、いかにもスポーツマンという身体つきの誠は、明朗な口調で気さくに正明に話しかけてくれた。
「はい、生徒たちが少しでも良い成績を残せるように指導していきたいです!よろしくお願いします!!」
「しっかし、ヒロにソックリだな。声も似てるし。ヨシ、良かったな」
「…そうですね…」
笑顔で善久の肩をポンポンと叩く誠。
善久はそれに対して少し困ったような表情を浮かべる。
「よしっ、今度正明の歓迎会やろうぜ!ヨシ、お前が幹事やれ」
「誠先輩、職員同士のそうした会はしないことに…」
「堅いコト言うなって。んじゃ、このメンバーで飲むってコトならいいだろ?正明、お前んちでいいか?ヒロのお参りもしたいしさ」
「あ…はい、僕は構いません。兄も楽しいことが好きでしたから、うちで良ければ…」
「よし、決まり!!酒やつまみはオレとヨシで用意するから正明はうちで待っててくれればいいからな!再来週やるってコトでどうだ?」
善久の制止の言葉を完全に無視して、誠はどんどん話を進めていく。
結果、再来週の土曜日に正明の自宅で善久と誠の3人で飲み会をすることになった。
その後、善久は校務があるということで退室し、正明は誠とふたりきりになった。
「アイツ、だいぶ立ち直ってきたみたいだな。ヒロのコト、ヨシが連絡くれて知ったんだけどさ、あの時のアイツの声、この世の終わりって感じだったな。ヒロが水泳部辞めるって時もそんな感じだったんだぜ?アイツ」
「そうなんですね…」
「アイツ、高校の時からずっとヒロ一筋なんだろうな。高校の時、学校で一番可愛いって言われてる子から告白されたのにあっさり振ったトコたまたま見ちゃってさ、もったいねーってオレが言ったらアイツ、『好きな人がいますので』って言ってきて。確かオレらが卒業する年のコトだったと思うけど、その頃のヨシはもうヒロにべったりだったから、オレ冗談で『もしかしてヒロ?』って聞いたらあっさり『そうです』って答えてさ。あん時のオレ、多分スゲー顔してヨシの顔見ちまったんだと思う。そのあとヨシ、『今のは嘘です』って言ってきたけど、あれはマジだったと思う」
正明の頭の中で、彰一との会話が再生される。
『教頭、やっぱ晃明センセが忘れられないんだろうね』
「………」
「お?その顔じゃお前もそう思ってた?」
「え…いえ…そんな事は…」
「へぇ、お前もヒロと同じで鈍い方なんだな。ま、ヨシが実際ヒロと接してるトコ見たことなかったら分かんねーか」
正明が返答に困っていると、誠が豪快に笑う。
「まっ、ココで働くのにヨシに好かれてなかったら大変だろうから良かったな。ヒロもお前が一人前になるのを願ってたから、今頃安心してると思う。ウチの部、ここ何年かインターハイ逃してて今年こそはひとりでも多く出場させたいトコだからよろしく頼む」
そう言って、誠は正明の手を握ってくる。
「はい、こちらこそ!」
正明もその手を握り返していた。
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