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第13話

シャワーで全てを洗い流しても、正明の身体はまだ熱を帯びているようだった。 それで尚更、水に入りたいと正明は強く思っていた。 「ヨシさん、あの…僕…泳ぎに行きたいです…」 善久に朝昼兼用の食事を用意してもらい食べた後、正明は善久に頼んでいた。 「そうですか。学校のプールには入れませんので、私が利用しているジムのプールで良ければ行けますよ」 「ありがとうございます、お願いします」 善久はまた、以前から知っている優しい善久に戻ったように正明には見えた。 (僕のあんな姿を知っているのがヨシさんだけっていうのと同じで、ヨシさんのあんな姿を知っているのは僕だけなんだ。…多分…) 「道具はありますか?」 「はい、昨日の練習に出るためにカバンに入れています」 「ではジムに行って、食事をして自宅に送るということで良いですか?」 「はい、ありがとうございます」 「お礼の言葉などいりませんよ、正明くん。君は私だけのものなんですから、これからは私に色々と要望して下さい」 善久は口元に笑みを浮かべながらそう言って、正明に軽めのキスをする。 (ヨシさん…本当にそうしたかったのは僕じゃなくてお兄ちゃんだったんだよね…) 正明は善久の行為を受け入れながらも、そう思っていた。 善久の通うジムは会員ひとりにつき、非会員はひとりなら利用できるというシステムだったため、正明は使用料だけを支払って利用することができた。 プールはそんなに利用者がいなかったため、正明はあまり人を気にせず泳いでいた。 隣のコースでは善久が泳いでいたが、正明は気にせず1キロをクロールでゆっくり泳いだ。 水の冷たさが心地良く、目まぐるしく起こった出来事の数々も、水がクールダウンさせてくれた。 (やっぱり泳ぐと心も落ち着くし、気持ちいいなぁ…) 晃明の死から、自分の人生は大きく変わったと思う。 けれど今は、水の流れに身を任せるように、自分も流れに身を委ねていくしかない。 いつかきっと、自分の中に答えが出てくる日が来るだろうから。 正明はそう思うことにした。 その後、正明は善久とジムで夕方まで過ごし、以前も2人で行った定食屋で食事をし、家まで送ってもらった。 「色々とありがとうございました。楽しかったです」 「こちらこそありがとうございます。君の事を更に深く知る事ができて良かったです。これから週末は私の所でこうして過ごして欲しいのですが、よろしいですか?」 「あ…はい…でも…授業の準備をすることもあるかもしれないんですが、それでもいいですか?」 善久からの突然の提案に驚いた正明だったが、過去に付き合っていた時に同じようなことがあったので、そういうものなんだろうと思い承知していた。 「それは構いません。部活動もあるでしょうし、私も学園で仕事がある時もあるでしょうから。その時の状況に合わせて調整していきましょう。…帰る所は私の家なら良いです…」 玄関先で話をしていると、善久がそう言って正明を抱き寄せる。 「週末までに合鍵を用意しておきます。私と一緒に帰れなくても家に入れるように…」 「あ…ありがとうございます…」 「ではまた明日」 「はい…お休みなさい…」 善久は正明にキスをした後、帰っていった。 「はぁ…明日から授業始まるし、頑張らなくてちゃ」 正明は自分の頬を叩き、気合を入れて家の中に入った。

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