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第21話
目が覚めた時、そこに誠の姿はなく、
『寝落ちして悪かった。嫁から連絡来たから帰る』
というメッセージがスマートフォンに入っていた。
「お兄ちゃん…」
晃明の姿も勿論なく、眠っている善久の傍に遺影があった。
「夢…だったのかな…」
夢にしてはとてもリアルだと正明は思った。
善久にブランケットをかけると、正明はテーブルの上を片付け、食事の支度をはじめた。
善久が目覚めたのはそれからかなり後のことで、その時の正明は今後の授業準備をしていた。
「すみません、すっかり眠ってしまって」
「いえ、大丈夫です。朝ご飯…というかもうお昼なんですが、食事作ったので良かったら食べて下さい」
「ありがとうございます。用意していただいたのでいただきます」
焼き魚とサラダと味噌汁というブランチを食べるふたり。
「昨日は夢のようでした。もう逢えないと思っていた晃明先輩に会えて、私の想いを伝えられて…」
「やっぱり、あれは夢じゃなかったんですよね…?」
「私は夢ではなかったと信じています。先輩に触れることは出来ませんでしたが、姿も声も先輩そのものでしたし…」
終始和やかな善久。
今までよりもずっといい表情を浮かべているように、正明は感じた。
「そういえば、君は昨日ありのままの君を好きだと言ってくれた人の想いに応えたいと話していましたよね」
「あ…はい…」
「…それは私には不可能な事ですので、私はもう、君を無理に縛りつける事をやめようと思います。これからは君だけの人生を送れるよう、応援させてください」
「ヨシさん…」
「先輩と約束したんです。私が先輩のところに行くまで、君の事は陰ながら見守っていくと。これからは私を晃明先輩だと思って頼っていただけたら嬉しいです」
「あ…ありがとうございます…」
正明は善久に深々と頭を下げる。
その日は別々にシャワーに入り、一緒にジムに行ってプールで泳ぎ、夕食を共にして善久と別れた。
(ヨシさん、お兄ちゃんに会えて吹っ切れられたのかな…)
それまでより少し明るく見える善久に、正明はそんな思いを抱いた。
(僕も変わりたい。ううん、変わらなきゃ…!)
正明は決意を胸に眠りについた。
翌朝、正明は部活の時間が来るのを待ち遠しく思っていた。
(絶対言わなきゃ。でも、拓哉くん、早く来るかな…)
そう思うと、授業が午前中で全て終わってしまっていることもあり、昼休みが終わってすぐに向かって準備しておけば確実に会えるだろうかと考えてしまう。
(早く行ってもいいよね、タイム推移見たりフォームチェックも出来るし…)
今日の授業をまとめると、正明は昼休み終了後に部室へ行くことにした。
「あれ?正明センセ次授業?」
「いえ、今日はもうないので先に部室に行って大会のために対策考えようかなって」
「ふーん、そうなんだ。なんか今日、いつもと雰囲気違うね」
立ち上がった正明に、彰一が声をかけてくる。
「前山田先生、すぐ分かるんですね、すごいです。じゃあ僕行きますね」
正明は笑顔でそう返し、職員室を出た。
「うーん、あのカンジ、今まで以上に可愛すぎて人気が更に出そうな予感がするな…」
足どり軽く退室した正明に、彰一はそんな独り言を言っていた。
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