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第3話

「うわっ、人だと思っちゃったな。えーっと、マニュアルや品質保証一切なし……? 起動確認取れず、か。すごい、まるで眠っているみたいだな」  服も生きている人間同然に着せられている彼は、整った顔立ちをした男性型だった。髪の毛はロボットでは一般的な銀色で、短く整えられている。目は閉じているので分からないが、まるで男性モデルかと思うくらいに鼻筋が通っていて唇は硬く引き結ばれている。そっと頬に触れてみたが、人工皮膚が使われているようでロボット独特の硬さは感じられない。 (ロボットがいるって言えれば、みんなに文句言われなさそうだしな)  ただ眠っているだけのロボット、というのも面白いかもしれない。そう思いながらふとロボットの首元を見ると、ドッグタグがかけられているのが見えた。 「ドッグタグ? まるでどこかの兵士みたいだね」  独り言を呟きながらそっとドッグタグに触ると、『No.A-Rack12』と書いてある。「エー・ラック12?」と声に出すと、ロボットの方から「認証」と答えがあり、ずっと閉じられていた瞳が開いた。ひかりは驚くと声が出なくなる。何も言えないまま固まっていると、目を瞬かせてロボットが立ち上がった。180cm以上はあるのだろう、台の上で立ち上がると170cmあるひかりを優に見下ろす感じになる。 「あれっ、動いた!」  近くにいた店員が驚いて駆け寄ってくる。店員の話では、ひかりと同様に彼の名前らしい「エー・ラック12」と呼びかけたりはしてみたが一切反応しないので壊れたのだと思っていたらしい。ひかりを見てくるロボットの瞳は、人との違いを感じられず生きているように見え、綺麗なアンバーの虹彩はつい見惚れてしまいそうだ。 「すごいですね、まるでお客さんを待っていたみたいだ」  笑顔で店員に話しかけられ、ひかりは思わずそっとロボットについているプライスカードを見た。ジャンク品コーナーなだけあって、なんとかボーナスも当てにすれば購入できそうな金額である。昔から店員に話しかけられるとなかなか振り切ることができず、結局買ってしまう傾向の持ち主でもある。だからなるべく家電量販店などは買う意思を固めてから行くようにしていたし、今日も気に入ったロボットと出会えたら購入して帰るつもりだった。 「気に入られちゃったみたいですよ?」  ロボットはずっとひかりをその綺麗なアンバーの瞳で見たままだ。自然な瞬きもしていて、人のようにしか見えない皮膚や筋肉の下に血が通っていないことに驚かされる。きっと、本当ならとても高額なロボットだったのかもしれない。 「おーい、いたいた。なんだ? ジャンク品買っていくつもりなのか?」  同僚の男が追いついて、ひかりをじっと見ているロボットにすぐ気づいた。男性型で背も高く、顔のつくりが良くても所詮ジャンク品。何に使えるのかすらも分からない代物ではただのインテリアだと同僚から散々反対されたが、まるで雨の日に捨てられている子猫を見つけてしまったような気持ちにもなりかけている。  「俺がこの子を気に入ったんだよ。すみません、買います」  買うことに決めると、店員は小躍りしながらテキパキと引き渡しの準備を始めた。だが、元々付属品など一緒になかった『No.A-Rack12』の引き渡しはすぐに終わる。電源の取り方すら分からないと言われたのは心配だったが、今時はバッテリ駆動に頼らず太陽光などでの蓄電システムを兼ね備えているタイプもいるからと説明され、そういうタイプなのかなと思うことにした。折角目が覚めたのにすぐにまた眠ることになってしまうのかもしれないのは、かわいそうに思えた。 「お前って決めたら案外頑固だもんなー。どうせすぐ飽きるよ」 「せっかくついて来てくれたのに申し訳ない」  同僚は仕方がない、と苦笑して見せる。  「えーっと、俺について来てくれるかな? 一緒に帰ろう」  店員が台から降ろそうとしても中々動き出さなかった『No.A-Rack12』だったが、ひかりが呼びかけるとすぐに反応して台から降りる。どうやら話は聞いてくれているらしい、と分かってほっとしながらひかりは自分のカードを店員に差し出すのだった。

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