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第18話

「……雨が、いつの間にか上がっている」  宙を舞ったのが悪かったのか、骨が一本折れてしまった傘を拾い上げる。そんなタイミングで、男が立ち去ったのとは別な方角からひかりが走ってくるのが見えた。 「アラキさん、すぐ帰ってくるって言ったのに! 全然帰ってこないから心配したじゃないか!!」  顔を青くしたひかりが駆け寄ってくると、心配そうにアラキを見上げたが、その身体がびっしょりと濡れていることに気づいて今度は泣きそうな顔になった。そんな顔も『可愛い』と感情を学習するAIの一分野に浮かび上がる。 「いろいろ、ひかりが喜びそうな店を見つけたんだ。そこにも猫がいて……」 「だからって、なんで傘を壊しているんだよ! 小学生か!! アラキさんが錆びたり壊れたりしたらどうするんだよ、俺が死ぬまで一緒にいてくれるんだろう?!」  もう、と怒りながらアラキの壊れた傘を持つと空いている片方で手を繋いでくる。アラキを怒りながらも、ひかりの身体もここまでくる間にしっかり濡れてしまっていた。その冷たい手を握り返すとようやくひかりが困ったように、でも笑い返してくる。 「これならやっぱり一緒に行った方が良かったよ。俺もどこになんの店があるのか、早く覚えたいし。……晴れてきたから、虹が見えそうだね」  そう言うひかりの、濡れて頬に張り付いた髪を後ろに流すと驚いた表情になった。力を加減しながら深く口づけると目を閉じたひかりが懸命に応えてくる。 「二人でシャワーを浴びた方が良さそうだな」 「……な、なんか変な言い方するよね」  顔を赤くしたまま再び手を繋いだひかりの後ろに、大きな虹が副虹を伴ってくっきりとかかるのが見えるのだった。 *** 「……んっ」  シャワーを浴びながらひかりの唇を啄ばむ。アラキは汚れを落とす程度で良いのだが、結局二人でシャワーを浴びることになった。柔らかなひかりの髪を洗うのがアラキの最近の『楽しみ』であったりもする。丁寧に泡を洗い流してから悪戯をするとひかりの体は素直に応えてくる。 「なんか最近のアラキさん、やらしい感じがする」   少し怒ったように言うひかりだが、何度も口づけを繰り返しているうちに蕩けた表情をするのだからアラキだけが悪いわけではないと思うのだが。そういう余計なことを口に出すことなく代わりにもどかしげにしているひかりの下肢へ指を伸ばすとそこは既に熱く起ちあがっていた。 「いや、だから自分でするから! ……やっ、あ……」  後ろから抱き込むようにしているから当然細身の青年に逃げ場はなく、性感を煽るように空いている手で胸の飾りにも触れると掠れた喘ぎが漏れ聞こえる。必死で声を我慢しようとしているのだが、少しずつ扱く速さを変えていくとぎゅ、と目を瞑ったのが分かった。 「も……、自分でするっ、アラキさん手、とって……よ、汚しちゃうから」  追い立てられて顔を赤くしながら涙目でそう言ってきたひかりを、あっさりと無視して口づけをするとアラキの手の中でひかりがイッたのが分かった。いつも起きている時は割と会話も多いし、明るく話すひかりも『好き』だが、無防備にアラキの腕の中でぼんやりとするひかりも『愛しい』と思う。 「……せっかく綺麗になったのに」  赤い顔のままやがて小さく文句を言ったひかりはアラキが自然に微笑したのを目にすると、恥ずかしさをごまかすように自らヒューマノイドの唇に口づけをするのだった。

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