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二話【梅雨入り(下)】
思い起こせば、今日はまだ相田の姿を見ていない。
(休み……?)
相田に興味を持たれていなくても、告白が無かったことにされていても、どれだけ相田にイライラしてしまっても……ヤッパリオレは、相田が好きみたいだ。
相田が休みなのかもと思うだけで、寂しくて仕方ない。そんな自分が、何だか情けなくもある。
担任の先生が教室に入ってきて、朝のホームルームが始まるぞと思った、その瞬間だった。
『ガラッ!』
教室の扉が、勢いよく開かれる。
教室の中に居る全員の視線が、扉の方へ注がれた。
そこに立っていたのは――。
「すみません、遅くなりました」
――何故か全身びしょ濡れの、相田だった。
相田は肩で息をしながら教室に入り、教壇の前に立っている先生に近寄る。
「お、おはよう、相田」
「おはようございます。すみません、今日はジャージで授業を受けても宜しいでしょうか」
「お、おう……とりあえず、着替えてこい」
「ありがとうございます」
先生に頭を下げて、相田は教室の後ろに置いてあるジャージの入ったバッグを手に取った。
白いワイシャツが、雨で濡れたせいか肌に張り付いている。
髪の毛も濡れていて、いつもと印象が少し違う気がするし、何より……。
(……エロくね?)
水も滴るいい男って言葉くらい、オレだって聞いたことがある。水が滴るとイケメン度アップとか、そういう意味なんだろ、確か。
普段はキッチリと制服を着ている相田が、濡れたことによって頭とか服とかがだらしなくなってて……濡れた髪を少しかき上げる仕草とか、雰囲気がいつもと全然違う。
変な、色気……? が、ある気がする。
相田はバッグを手に持ったまま、教室の中を歩く。
普段は相田に興味なんか無さそうにしている女子達が、相田を見て頬を染めている。
入学してから毎日相田を見続けているオレでさえ、目が離せない。
(そんな状態で、ウロつくなよ……!)
何だか、妙にモヤモヤしてきた。
相田は、カッコいい。そんなの、オレが一番よく知っている。
雨に濡れて、ちょっとカッコ良さがアップしたからって……それだけで、そこまで露骨に意識するのか、女子は。
女子の視線を独り占めしているとは気付いていないであろう相田は、着替える為に教室を出て行った。その後ろ姿まで、女子はしっかり目で追っている。
(……相田の、バカヤロウ)
何でずぶ濡れになってたのかは知らないけど、オレは心の中でそんな悪態を吐いてしまった。
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