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第4話

 人を受け入れることを知らない良一のからだは、巧が出入りするたびに痛みで強張る。 「言う気に、なった?」 「だ、から! 本に、書いてるとおりだって、ぐあっ!」 「じゃあ、質問を変えるね。ねえ、教えて。どうしてあのとき、僕を殺さなかったの?」  巧は無遠慮に良一を貫きながら問いかけた。 「……殺そうと思った。でも、殺すために抱き上げたら、あったかくて、ちいさくて、いとおしさが溢れたんだ。ヒ、ギィッ!」  巧は良一の腰を掴み、より深く、腰を乱暴に打ち付けたため、良一は呻き声をあげた。 「いとおしい? 僕の母親のことは、あんなにも残忍に殺したくせに。僕は全部、全部を見ていたぞ。春日良一」 「おい、どうして泣くんだ……泣かないでくれ」 「アンタは、僕の何なんだ」  顎から伝い落ちてくる涙に、良一は自分のされている行為も忘れオロオロと巧を見つめた。 「事件のことは母親が殺されるところしか覚えてないのに、アンタの顔がずっと忘れられなかった。あの、顔はなんなんだ」 「俺の、顔? あぅうっ!」  突然引き抜かれた巧の陰茎に良一は唸る。痛みとともに熱も抜け落ち、ぽっかりと開いた後孔に触れる外気にぞくりとした。  巧はそんな良一をじっと見ている。 「もう一度聞く。どうしてあのとき、僕を殺さなかったの?」 「お前こそ、逃げたり、反撃しようと思えばできたはずだ。どうしてしなかった? 俺がお前を殺さないことは、知っていただろ?」 「知っていた? ……ねえ、笑ってよ」 「はぁ? ……ぐっ?!」  巧は良一の口に自分の親指を押し込み横に引き上げる。 「あの時みたいに、笑ってよ」  ぐに、ぐに、とねじ込んだ親指で良一の口を横に引き上げていると、ぷつりと良一の口角がほんの少しだけ裂けた。 「ずっと、アンタの顔が忘れられなかった。アンタの僕に向けたあの笑顔。まるでラファエロの描いた聖母だった」  良一の口から親指を引き抜いた巧は、良一の唾液で濡れた自分の親指をぺろりと舐めた。 「僕は、そんなアンタに殺されたいとさえ思う夢さえ見続けた」  巧は仰向けの良一の上に体を重ねる。 「お前が俺を殺したいなら殺せばいいし、こういう関係を望むなら好きにすればいい」 「こんなの、まるで僕がアンタに恋しているみたいじゃないか」  薄い胸がぴたりと重なっている。早い鼓動を打つ巧に比べ、良一の鼓動はゆっくりだ。巧は良一の肩口に顔を埋める。 「俺もひとつ聞いていいか……お前、幸せにならなかったのか?」 「幸せ?」 「俺は、ずっと……お前の幸せを祈っていた」 「なんだよ、それ」 「報道されたこと以外に、なにか知ることはできたか?」 「いや、アンタの実名と、アンタが供述した経緯くらいだ。あとは、アンタがいじめにあっていたとか、記事にもならなかった話だけ」  良一は巧越しに見える天井をじっと見つめながら言った。 「俺はあのあとずっと、神様に祈っていた。そして神様に問いかけてきた。あの子は幸せになれたのでしょうかって」 「幸せなんて、僕は知らない」 「真実を知ることがイコールお前の幸せに繋がるとは限らない。それでも、お前が知りたいなら、教えてやる」 「……」 「なあ。お前も、なにか疑問に思うからこそ調べてんだろ?」  良一はゆっくりと重なった巧の体に腕を回した。

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