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第3話
大内隼人は、小さな警備会社の大内警備の三代目社長だ。
半年前、社長を務めていた父親が突然倒れ、急きょ社長に就任した。
しばらくして、事前の説明以上に、大内警備の経営が悪化していることを知った。
今は、顧客への営業と金策に走り回る毎日だ。
間島のオフィスに一緒に来ている佐久間は、長年父親の右腕として働いてきた会社の幹部だ。
佐久間は今でこそ穏やかな老人だが、昔は相当なワルだったと聞いたことがある。
父を慕って頻繁に家に出入りしていて、子どものころはよく遊んでもらった記憶がある。
忙しい日々のある夜、隼人が経理からあがってきた支払い明細を見て頭を抱えていたら、佐久間が社長室に入ってきた。
「隼人坊ちゃん。遅くまでご苦労様です」
「その、坊ちゃんってやめてください」
「いやあ、つい、慣れた呼び方しちゃって、すみません。若社長」
「あのー。若社長っていうのも、やめてほしいんですけどね」隼人は繰りされる同じ会話にため息をついた。
「お困りのようですね」
「今月も赤字で」と隼人はつい弱音をもらしてしまう。「なんかいい仕事ありませんかね」
「いい仕事、ですか」佐久間はうなずき、しばらく考えてからためらいがちに口を開いた。
「隼人坊ちゃんには、今まで黙っていたんですが、実は、わが社には、警備とは違う仕事がありまして」
そう佐久間は話を始めた。
知らない話だった。半分は驚いたものの、もう半分はすぐに理解できた。
大内警備のここ数年の売り上げを整理していたら、知らない取引先がたまにでてきたのだ。
請求書はでていて、入金もある。だが、業務の具体的な内容ははっきりしなかった。請求金額もそこそこになっている。
なにをしていたのだろうか、と思ったが、忙しいこともあり追求は後回しにしていたのだ。
「隼人坊ちゃんが社長になったので、もう、こういった仕事は断ろうかとも思ったのですが、会社が赤字であれば断るのは坊ちゃんにお伺いを立ててからにしようと思いました」
「どんな仕事ですか?」金になるなら多少まずくてもとにかく仕事は欲しい。
「探偵仕事の仲介です。うちはお客さんと探偵事務所の間をとりもって、仕事の報告をしたり、進行管理をしたりします。業務は私が心得ていますから、ぼっちゃ、いや、社長の手を煩わせることは全くありません」
説明を聞いたが、不安はぬぐえなかった。なにか、悪いことに巻き込まれそうだ。
だけど、金は必要だ。会社を維持して、従業員に給料を払わなければならないのだから。多少のことは目をつぶらなければ、そう思った。
そして、最初だけ、外注の探偵事務所に挨拶に行ってほしい、と佐久間に言われて、今日、この間島探偵事務所に来たのだ。
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