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第4話

佐久間が間島と狭霧へ依頼の内容の説明をした。 こちらが指定する倉庫兼店舗を調べて欲しい。 その建物に出入りしている人間の正体と目的を確認して、中でなにが行われているか把握し、犯罪の証拠を手に入れて欲しい、といったことだ。 先に説明を受けてはいたものの、もう一度佐久間の口から聞いて、つくづく怪しげな仕事だ、と隼人は思う。 狭霧圭は話を聞きながらも時々自分をみてくる。 唇の端をあげて面白いものでも見るような様子は、生意気だった高校生の頃と一緒だ。 隼人の心を波立たせ、イラつかせる。 こんなところで、彼に会うなんて。しかも、私立探偵って、どういうことなんだ。 探偵事務所の間島は、仕事の内容に怪しむ様子や不安そうな感じはない。こんな案件はなれっこなのだろうか。 間島は佐久間の説明の合間に、具体的なことを聞いている。対象となる店舗の場所、出入りしている人間の人数。 佐久間が説明を終えると間島が言った。 「出入りしている男たちの素性を確かめことはできますが、犯罪の証拠は、犯罪をしていなければ無理です」 佐久間はうなずく。「もちろんです。犯罪がなければそれにこしたことはない」 さらに、佐久間と間島が業務の具体的な内容を詰めていく。業務期間や調査方法、必要な人数や経費などだ。 そして、話がまとまりかけた時、「こんな感じでいいかな、狭霧くん」と間島が圭の方に顔を向けて尋ねた。 それまで黙っていた圭が口を開いた。 「やってもいいけど、どーせ、若社長さんところはケチな金額しか払わずに、危ない橋だけ俺らに渡らせるつもりだろ」 挑発的な黒い目が隼人を見る。 「狭霧くん、お金の話はね、私と大内警備さんで決めるからね、ね」と間島はあっせったように言う。「君にはきちんとお支払するから」 「そんなこと言ってても、間島さん、いつも損してるって後から愚痴ってるじゃないか」それから圭はわざとだらしなく机に頬杖をついて隼人の顔を覗き込んだ。「外注先だと思って、少ない金額ですまそうとかしてんじゃねえよなあ、若社長さん」 莫迦にしたような口調だった。 「あたりまえだ」と隼人はつい答えてしまった。佐久間が隣で自分を制止しようとしているのを無視する。 「お前こそ、金のこといってるけど、実はやりたくない、いや、やれないんじゃないのか?自信がないから金が少ないとか言って、逃げようとしてんだろう」 「な、んなわけあるかよ。俺は依頼された仕事で、できなかったことはない」 「どうだかなあ。そういう大口叩く奴に限って、いざってときに言い訳するからな」 隼人は腕組みし、わざと背をそらして、圭を見下して見せる。 「だいたい、お前に、どれほどの経験があるっていうんだよ」 「お前よりはあるよ、若社長さん。金ないなら、正直にそう言ったらどうだよ」 「必要な費用はきちんと支払う」 「へえ。いくらだよ。まさか、特別割引なんていうつもりじゃないだろうな」 隼人は思わず金額を口走っていた。 「若社長、それは」佐久間がとまどっている。 「それだけ?」と圭が言う。「やっぱ若社長さんは、ケチ、」 あおられているのはわかるのだ。 だけど、圭の前では、穏やかではいられない。 だめだ、だめだ、という心の制止の声を聞きながら、隼人は、より高い金額を提示していた。

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