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第8話

「うまい。隼人、料理の腕は落ちてないな」 「それで、用事ってなんだ?」 「うん、金のことなんだけど」 「なんだよ。あれ以上は払えないぞ」 「知ってる。っていうか、よくあんなに払うって言ったなあ。相変わらずバカだな、隼人。冷静そうな顔して、頭に血が上りやすいんだから」 「るせえよ。金の話ってなんだよ。早くしろよ」 「間島とお前んとこの佐久間が二人であの後話して、契約金を下げようとしてる」 隼人は笑った。「それは結構なことだ」さすが佐久間さん。頼りになる。 「なにが結構だよ。仕事すんのは俺だろ。間島は、何にもしないのに半額取るんだぜ。俺の手元に少ししか残らない。でも、お前の仕事、みっちり3カ月はかかる。俺にはした金で仕事しろっていうのかよ。しかも、経費込みで。俺、飢え死にしちゃうよ」 隼人はわざと意地悪く笑った。 「やっぱり、仕事できないって言いに来たんだな。金がどうのじゃなくて、素直に怖くてできないっていえよ」 「はあ?」圭はフォークを握る。「はあ?何言ってんの。俺ができるっていってできないことはねえんだよ。だいたい、俺が怖がるわけないだろ。俺には怖いものなんて」 「わかったから、そう力むな。それで、金が欲しいのか?」 「必要だって言ってるんだ。それから、力んでなんかいないからな」 圭はフォークでぐさりとハンバーグの残りをさし、口にいっぱいに頬張っている。 「確かに、中抜きが多すぎて、お前に入る金が少なすぎるな。それはわかるが、俺にどうしろっていうんだ?お前が間島さんと交渉するのが筋だろ」 「それができないから言ってるんだよ。少し加算してくれよ」 却下して黙っていたら圭はしつこく頼んでくる。 隼人は圭が作ったサラダを食べた。頭の中で計算をする。 「後、これくらいなら」と言って少ない金額を提示した。 「ケチだなあ」 「もう、その手に乗るかよ。成功報酬でもう少しは用意しておく」 「そんだけかよ。しょうがねえなあ。お前んとこも厳しいんだな。だったら、もういっこお願いなんだけど」 「なんだよ。頼みごとの多い奴だな」 「追加の金は、隼人から俺に直接くれよ。間島通すと中抜きされちゃうから」 「そこまではできない」 「隼人に俺が請求書書いて、経費で回してくれればそれでいいだろ」 「ビジネスのルール違反だからだめだ」 「そのかわり、お前のために働いてやるよ」 「俺のため?」 圭は隼人の目をじっとみてうなずく。 この目だ。大きな濡れたような漆黒の目。誰でも魅了され、逆らえなくなる。彼は自分の魅力をよく知っていて、意図的にこんな目をすることができるのだ。

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