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第9話

隼人はため息をつく。 圭のことを知らなかったら、すぐにこの目に引き込まれていただろう。 だが、自分は彼を知りすぎている。 「俺のためねえ」疑いの返事をした。 「信じろよ。今回の件、依頼内容も怪しいだろ。佐久間っておっさんも怪しいし、依頼もとだって、ヤクザかもしれないぜ」 「何言ってんだ。佐久間さんは、長年会社に貢献してくれてる人で、信用が置ける」 「どうだかな。だいたい、今回の仕事の客は誰なんだよ」 「NPO法人らしい」 「NPO法人がなんで怪しい店調べてんだよ」 「詳しくは聞いていない。きちんとしたNPO法人だから、大丈夫ってことだ」 圭が、はあ?と声をあげ、それから笑う。 「隼人、大丈夫かよ。このご時世で、口だけ大丈夫って言葉を信じるのか?人を見る目がないとこも変わってないな」 「金になるんだったら、怪しい仕事もするさ」と隼人は答えた。 圭は、口をつぐんだ。また、隼人の顔を覗き込んでくる。今度の目は、先ほどのとは違う。 「会社経営、そんなに大変なのか?」 「大変じゃない仕事なんてないだろ」 「びっくりした。隼人が、そんなこと言うなんて」 「そんなことってなんだよ」 「だって、いつでも勧善懲悪、公明正大、清廉潔白な生徒会長だったじゃん」 「高校の時は、俺に偽善者とか猫かぶりとか言ってたの忘れたのか」隼人はあきれて笑う。 悪口ばかり言われていた気がする。自分も言い返していたが。 圭は肩をすくめた。 「まあいいじゃないか。今回の依頼の背景も調べておいてやるよ。隼人の会社に悪いことがないように、さ。だから、直接、支払い頼む」 手を合わせて拝むポーズをする。 調べるなと言っても圭は調べるだろう。 だめだといってもしつこく頼んでくるだろう。 「わかったよ」 圭は笑顔になる。「ありがと。もう、ビール飲んでもいい?」 「俺の分もとって来いよ」 「はいはい。かしこまりました。大内先輩」 圭は立ち上がり、冷蔵庫に行った。

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