9 / 93
第9話
隼人はため息をつく。
圭のことを知らなかったら、すぐにこの目に引き込まれていただろう。
だが、自分は彼を知りすぎている。
「俺のためねえ」疑いの返事をした。
「信じろよ。今回の件、依頼内容も怪しいだろ。佐久間っておっさんも怪しいし、依頼もとだって、ヤクザかもしれないぜ」
「何言ってんだ。佐久間さんは、長年会社に貢献してくれてる人で、信用が置ける」
「どうだかな。だいたい、今回の仕事の客は誰なんだよ」
「NPO法人らしい」
「NPO法人がなんで怪しい店調べてんだよ」
「詳しくは聞いていない。きちんとしたNPO法人だから、大丈夫ってことだ」
圭が、はあ?と声をあげ、それから笑う。
「隼人、大丈夫かよ。このご時世で、口だけ大丈夫って言葉を信じるのか?人を見る目がないとこも変わってないな」
「金になるんだったら、怪しい仕事もするさ」と隼人は答えた。
圭は、口をつぐんだ。また、隼人の顔を覗き込んでくる。今度の目は、先ほどのとは違う。
「会社経営、そんなに大変なのか?」
「大変じゃない仕事なんてないだろ」
「びっくりした。隼人が、そんなこと言うなんて」
「そんなことってなんだよ」
「だって、いつでも勧善懲悪、公明正大、清廉潔白な生徒会長だったじゃん」
「高校の時は、俺に偽善者とか猫かぶりとか言ってたの忘れたのか」隼人はあきれて笑う。
悪口ばかり言われていた気がする。自分も言い返していたが。
圭は肩をすくめた。
「まあいいじゃないか。今回の依頼の背景も調べておいてやるよ。隼人の会社に悪いことがないように、さ。だから、直接、支払い頼む」
手を合わせて拝むポーズをする。
調べるなと言っても圭は調べるだろう。
だめだといってもしつこく頼んでくるだろう。
「わかったよ」
圭は笑顔になる。「ありがと。もう、ビール飲んでもいい?」
「俺の分もとって来いよ」
「はいはい。かしこまりました。大内先輩」
圭は立ち上がり、冷蔵庫に行った。
ともだちにシェアしよう!