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第11話
食事をしながら、圭は仕事の報告をしてきた。
「報告書は、間島には出す。間島から佐久間のところに行くと思う。佐久間がどうするのかわからないし、報告書に全部書くわけでもないから、まず、隼人に先に伝えようと思って」
隼人は食事をしながらうなずいた。
向かい合わせに座った圭は、唐揚げを口に入れている。熱っ、旨い、と呟いていた。
我ながら、この唐揚げはうまく揚がったと隼人も思った。
今のワンルームは狭くて、料理と言っても適当だ。この家のキッチンのように広くて、コンロも4台あると、並行していろいろなものができるから便利だ。
取り立てて料理が好きでもないのにそう思ってしまった。誰かに料理を作るなんて久しぶりだからだろうか。
「これが、指定の店舗兼倉庫」
写真画像が表示された小さいサイズのタブレットを差し出して来る。店は、立ち飲み屋風で灯りがついていた。
だが、客はほとんどいなさそうだった。
一週間で出入りしているのは十人程度だ。
髪を金色にした派手な服装の若い男もいれば、スキンヘッドで背の高い男もいる。スーツ姿の男に、水商売風の女。雑多だがどれも堅気ではない。
時々、うっかり入ってしまったのか普通のサラリーマンが入るが、それは時間をおかずにでてきている。
「この男は始終店にいる。キーマンの一人だと思う」
圭は、夜の写真を拡大する。40代くらいの短い髪で丸い眼鏡にあごひげの男だ。店を経営していると言われればそうかなと思うような風情で、ヤクザの類にはみえない。
「正体がわかったのか?」
「今、探ってる。名前は、塚田だ。多分だけど、黙打会系の二次団体か三次団体の関係者だ。盃を交わしてるかどうかもわからない。つまり、正式なヤクザじゃないかも」
「この店のトップなのか?」
「トップ、かな。そうでなくても、No2くらいだと思う。もちろん、店の外には、塚田のボスはいるだろうけどな」
「それで、店では、なにをしてるんだ?」
「確証はないけど、ドラッグを扱っているんだと思う」
「覚せい剤?」
「種類はまだわからない。最近は、いろんな薬が出回ってるから。すぐにハイになるとか、痩せるとか、きれいになるとか。アンチエイジングとか言って売ってるのもあるし。形も色も工夫してる。一見違法なドラッグだとは思えない。そういったものをジュースや酒にこっそり入れて飲ませたり」
隼人が顔をしかめたせいか、圭は面白がって話を続ける。
「飲ませてどうするか知ってる?セックスすんだよ。なんでも言うこと聞かせられるドラッグもあるよ。強姦されてんのに、すげえ気持ちよくなって、本人が泣いて喜ぶようなのも。ドラッグやってる間のこと、全然意識なくて、覚えてないっていうのもある。後からその時の写真が送られてきて、脅される奴もいる」
「悪趣味だな」
「ドラッグ使ってセックスするのが?」
「いや、そういう話を嬉々としてするお前がだよ」
圭は笑いだした。
「隼人はこういう話、嫌いなんだ。面白いだろ」
「どこがだ。お前、まさか、その手の犯罪に手を染めてるじゃないだろうな」
「まさか。誰かに薬飲ませるなんて『悪趣味』なことしない。ドラッグなしでも、俺が言えばなんでもやってくれる奴は、山のようにいるからな」自信満々だ。そして、「女も、男もね」と付け加えている。
「なんでもやらせるっていうのは、それはそれで悪趣味だ。で、塚田はこんな場所で堂々とドラッグ売ってるのか?怪しすぎてすぐにばれそうだが」
「あのなあ。ドラッグがらみってわかったのは、俺の腕がいいせいだ。こんな店、前を通りがかってるだけじゃ、わからない。それと、ドラッグも、末端の消費者に売ってるんじゃない。多分、卸しっていうか、一時的な製造工場兼倉庫みたいな場所なんだと思う」
「証拠はつかめそうなのか?」
「犯罪の証拠を把握するのが、今回の俺の仕事だろ。時間かければ必ずできる」と圭はうなずく。
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