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第19話
そんなことがあってから、隼人はちょくちょく圭の家にいき、料理をしたり家事をしたりしたのだ。
特に夏休みはほぼ毎日圭の家にいた。
塾や学校の夏期講習の後、隼人が圭の家に寄っていることは家族も友人も誰も知らなかった。
どこかにこもって受験勉強をしていると思われていたのだろう。
隼人は、部活も生徒会もやめてしまった後の受験勉強の息抜きだと自分に言っていた。
毎日気が付くと、引き寄せられるように足が圭の家にむいていたのだ。
家事はもちろん、圭にも手伝わせたが、彼は、隼人に頼ってしまえと思っていたのか、自分から進んでなにかをしようとはしなかった。
一緒にご飯を作っている間は、楽しそうだった。
他愛もない冗談に、彼がよく声をあげてほがらかに笑っていたのを今になって思い出す。
思えば、甘えていたのは自分の方だったのだ。
一匹狼の圭が、自分にはなじんでいた。だから、少しくらいのことであれば、圭は自分を許すと思っていたのだ。
伝えるきっかけがつかめず、間際になってオーストラリアに留学すると告げた。
「卒業したら、すぐに、オーストラリアに行く」と告げた時、
「へえ」圭は気のない返事だった。
「お前は、ちゃんと授業行けよ」
「ふうん」
「夏休みになったら、戻ってきてチェックするからな」
圭は、上目遣いに隼人を見た。
そして、棒読みで言った。「チェックすんのはお前の勝手だけど、俺は、待ってたりしないから」
そして、圭の肩に伸ばした隼人の手を、右手で叩くように振り払い、圭は歩き去ってしまった。
それが、圭を見た最後だった。
その後、圭にメッセージを送っても電話しても、返事はなかった。既読がつくこともなかった。
隼人が夏休みに高校に行くと、圭は姿を消していた。転校したのだ、と先生には説明された。
個人情報と言うことで行き先は教えてもらえなかった。
圭のいたマンションに行ったら、何があったのかはわからないが、全て引き払われて、他の住民が住んでいた。
それとなく、圭と同じ学年の後輩に聞いたり、圭がよく遊んでいた繁華街の店に行ってみたが、彼を見つけることはできなかった。
最後には、圭の父親である片倉竜三郎の連絡先を調べ、圭の行方を尋ねる手紙を書いた。
だが、思っていたとおり返事はなかった。自分の手紙を読んだものがいたかどうかもわからなかった。
探さなければ、と思ったが、一方で、無理だろう、圭は、自分に会いたくないのだ、と思った。
いや、会いたくないなんていうことではない。今頃、自分のことなどすっかり忘れているだろう。
どこかで、自由に楽しくやっているはずだ。
繁華街の遊び場で、彼の笑っている横顔が、思い出される。
隼人が声をかけるとこちらをむいて、笑顔は消えていく。つんとすました顔になり、何かをいう前に、うるさいなあ、と言うのだ。
彼が忘れても、自分は忘れられない。忘れないはずだった。
だが、日常生活に紛れて、彼を探すことをしなくなったのだ。
もし、過去に戻れる魔法があったら、あの夏休みの時間に戻ってみたい、と隼人は思う。
二人で食材を買い、料理をし、腹いっぱい食べたら、夜遅くまで、隼人は圭の家で勉強した。
圭は、隼人の邪魔をしたり、ゲームをしたり、ごくたまにだが、一緒に勉強をした。
毎日の目標がはっきりしていて、二人でいると家の中はさびしくなく、満ち足りていた。
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