20 / 93

第20話

土曜日の昼に、圭と打ち合わせの約束通り、隼人は、圭のマンションにいた。 広いエントランスで、インターフォンを鳴らす。 一回では応答がなく、何回か鳴らす。 しばらくして「はい」という小さい声がした。 くぐもっていて、圭の声とは違うような気もした。隼人の姿をカメラごしに認めたのだろう、エレベーターホールへの自動ドアが音もなく開いた。 エレベーターを降りると、すぐに、圭の住む家の重厚なドアになる。 再びインターフォンを鳴らした。 それにはすぐに返事があった。 ドアが静かに開くと、知らない顔の男が立っていた。 30代半ばくらいだろうか。隼人と同じくらい上背があり、がっちりして、スポーツをやっているのだろう日にやけて健康そうな男だ。 黒っぽいTシャツに黒っぽい麻のエプロンをかけている。 首にシルバーのアクセサリー。右目の上に2センチくらいの傷跡がある。全体的に整っていて、俳優かモデルのようだ。 男の方も隼人を、ジロジロとみていた。そして、ふいに笑みを浮かべた。 「狭霧、お客さんだぞ」と男は背後に向かって大きな声をだした。 返事の声は奥の部屋からで遠い。 それから、「どうぞ」と言い、隼人を中にいれた。 「南川といいます」と彼は自己紹介してきた。「あなたが大内隼人さん」 「大内です」と隼人は頭を下げた。 圭が自分の名前を伝えたのだろう。 何者なのだろうか。 この家の持ち主か。圭と一緒に暮らしているのだろうか。圭と南川はどんな関係なのだろうか。 質問が次々に頭に湧いて出たが、口には出さなかった。 パタパタと軽い足音がして圭が来た。 シャワーでも浴びていたのだろうか。濡れた髪をタオルで乾かしながら、「お待たせ」と言った。 南川は、手を伸ばし圭の濡れた髪に触れようとした。当たり前のような親しげなしぐさだったが、圭は、後ずさってその手を避けた。 「俺、今起きたところ。打ち合わせ前に昼飯にしていい?」と、隼人にむかって圭が言った。

ともだちにシェアしよう!