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第20話
土曜日の昼に、圭と打ち合わせの約束通り、隼人は、圭のマンションにいた。
広いエントランスで、インターフォンを鳴らす。
一回では応答がなく、何回か鳴らす。
しばらくして「はい」という小さい声がした。
くぐもっていて、圭の声とは違うような気もした。隼人の姿をカメラごしに認めたのだろう、エレベーターホールへの自動ドアが音もなく開いた。
エレベーターを降りると、すぐに、圭の住む家の重厚なドアになる。
再びインターフォンを鳴らした。
それにはすぐに返事があった。
ドアが静かに開くと、知らない顔の男が立っていた。
30代半ばくらいだろうか。隼人と同じくらい上背があり、がっちりして、スポーツをやっているのだろう日にやけて健康そうな男だ。
黒っぽいTシャツに黒っぽい麻のエプロンをかけている。
首にシルバーのアクセサリー。右目の上に2センチくらいの傷跡がある。全体的に整っていて、俳優かモデルのようだ。
男の方も隼人を、ジロジロとみていた。そして、ふいに笑みを浮かべた。
「狭霧、お客さんだぞ」と男は背後に向かって大きな声をだした。
返事の声は奥の部屋からで遠い。
それから、「どうぞ」と言い、隼人を中にいれた。
「南川といいます」と彼は自己紹介してきた。「あなたが大内隼人さん」
「大内です」と隼人は頭を下げた。
圭が自分の名前を伝えたのだろう。
何者なのだろうか。
この家の持ち主か。圭と一緒に暮らしているのだろうか。圭と南川はどんな関係なのだろうか。
質問が次々に頭に湧いて出たが、口には出さなかった。
パタパタと軽い足音がして圭が来た。
シャワーでも浴びていたのだろうか。濡れた髪をタオルで乾かしながら、「お待たせ」と言った。
南川は、手を伸ばし圭の濡れた髪に触れようとした。当たり前のような親しげなしぐさだったが、圭は、後ずさってその手を避けた。
「俺、今起きたところ。打ち合わせ前に昼飯にしていい?」と、隼人にむかって圭が言った。
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