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第23話

マンションの外で南川と別れ、NPO法人には、圭の車でむかった。 車は探偵らしく地味なワンボックスカーだ。 助手席に座って、運転する圭をみながら、「よかったのか?」と隼人は聞いた。 「なにが?」 「南川さんと一緒じゃなくて」 「なんで?まだ、用事あった?」 「いや、俺はないけど、でも、お互い休日だったんじゃないのか?なのに、俺と一緒に、NPO法人見に行くって言って、南川さんを帰してしまって、悪かったんじゃないか?」 圭は首をひねる。 「『お互い休日』ってなに?隼人、何言いたいのか、わかんないんだけど」 「だから、南川さんは、今日はお前と一緒に過ごすつもりだったんじゃないか?お前、南川さんと付き合ってるんだろ」 圭の顔がほころんだ。 「気配りってこと?さっきの話聞いてなかったのか?南川には、仕事手伝ってもらってるだけだ」 「それだけ?とてもそうとは見えなかった」 圭はうなずく。「まあ、そう思っても不思議じゃないけどな。南川は俺に気があるんだ。でも、俺は付き合う気ないから」 美しい圭には、誰かに好かれるなんて当たり前のことで特別なことではないのだ。 顔かたちの美しさだけじゃない。自信ありげな態度や謎めいたところ、一匹狼のような自由なふるまいに引き付けられる人間は多いだろう。 「大学生の時のアルバイトしたときの雇い主が南川だったんだ。探偵仕事の手伝いで、尾行したり、張り込みしたりして。その時、確かに、南川とは何回か寝たけど、長続きしなかった。でも、仕事は俺にあってて面白いから続けることにしたんだ。むこうは俺に未練があるみたいだから、今回の仕事も、安く引き受けてくれてる」 「な、お前、南川さんを利用してるってことか?そういうの、やめた方がいいんじゃないか」 「じゃあ、もっと隼人に請求してもいいのかよ?」 「いや、それはできないけど」 「だろ。いいんだよ。南川は、俺に関われるだけど嬉しいんだから」 隼人はあきれかえる。 「相変わらずの自信だな」 圭は、隼人の方に顔を向ける。 「変わってない?」 「前向けよ」 圭は、言われたままに前を向く。 「隼人は、今、彼女いるのか?」 「いない」 「だよな。家に箸一膳しかなかったし。もてそうだけど、なんでいないんだ?」 「別にもてないし、零細企業の社長なんて、忙しくて彼女作ってる暇なんてない。今日だって仕事だろ」と正直に答えた。 「ふうん。苦労してるんだ。やめちゃえば?」 「何を?」 「会社」 「あのなあ、そんなことできるわけないだろ。って、前向けって。信号変わるぞ」 「やりたくないことしてたら血圧あがるし、ストレスでハゲるよ」 「毛髪は関係ないだろ。ストレスない人だって、薄い人はいるし」 圭は、クスクス笑った。 「それはそうだ。でも、どうせ会社は儲かってもいないんだろ。狭いワンルームに暮らして、彼女もいなくて、土日も仕事して、何が楽しいんだ?」 「責任ってものがある。会社の従業員や家族がいるだろ。生活がかかってる。やめたいからやめますってわけにはいかない」 「でた、責任ってやつだ。その言葉、隼人好きだよな。そういう点では、好きなことしてんだな」 車は信号に従い、ゆっくりと右折していく。NPO法人のいるビルが見えてくる。 「俺のことはいいんだよ」と隼人はつぶやいた。

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