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第25話
数日後、いつも通り遅い時間に家に帰ると、ドアの前に人影があった。
ワンルームマンションのドア前の薄明かりの下に立っている。この前の脅しの言葉があったから一瞬緊張したが、すぐに細い身体のラインから誰かわかる。
さっき、チェックしたスマホには、今日来るという連絡は入っていなかったはずだ。
「圭?」隼人は、圭に呼びかけた。
圭がその声にしばらくしてから反応し、こちらをみる。奇妙なほど緩慢な動作だ。
返事の言葉もない。
「今日は、なんだ?」と聞いてみた。「悪いけど、夕飯は外で食ってきたから、食べるものは何もないぞ」
圭は、近づいた隼人を見上げていた。
黙っている。
大きな黒い目はトロンとしている。
腰をかがめて、顔を覗き込んだ。「酔ってるのか?」
ふいに、圭の両手が伸ばされた。
それから、顔の距離を近づけ、よける間もなく、唇を重ねてきた。ほんのわずかだがかすり、柔らかな感触が伝わる。
「っつ、けい、お前何すんだ」
すぐに、隼人は圭を押しのける。
圭は、悲しそうな顔をした。
「どうして?嫌なのか?」
「嫌って、どうかしてるのはお前だろ」
そう聞くが、答えはない。
くらっと圭がバランスをくずしそうになり、しがみついてきた。相変わらず顔は近くにある。吐息が頬にかかる。熱い。
まさか、と思って、確かめようと身体を手でなでた。
「あっ」圭が小さく声をあげて身体をねじった。
その様子に、思わず舌打ちしていた。
前に、圭が言っていたクスリのことが思い出される。
誰彼かまわず、やりたくてたまらなくなるクスリがあると言っていた。そんなクスリを飲んだのか?
いや、誰かに飲まされて、逃げてきたのか。
「圭、お前、まさか、クスリ?」質問するが、答はえない。聞こえていないのだろうか。再度、聞いてみた。
圭は、形の良い唇の両端をあげ、笑みをつくる。そして、彼は身体を隼人にこすりつけてきた。
「なあ、やろうよ」
ストレートな物言いに戸惑い、隼人は首を横に振った。
「したくないのか?」
タチの悪い誘惑の黒い目が自分をとらえ、離さない。
ベッタリと、身体を密着させてくる。全身から、知らない熱い空気とクラクラするような甘い匂いが立ち上っている。身体が異様な化学反応をおこしている。
圭の鼓動が、密着した胸を通してつたわってくる。圭は、また、顔をよせてきた。
「キス、したい。して」
傲慢に命令してくる。
柔らかな唇が軽く開き、舌が見えている。
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