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第30話
圭は、うめき声をあげて目を覚ました。
見慣れない部屋だ。天井はベージュ色。どこからか、陽の光が柔らかく差し込んでいる。
そんな穏やかな雰囲気とは異なり、身体は最悪だった。頭が割れるように痛み、吐き気がする。全身がバリバリに固まっていて、痛い。
痛みをこらえ、身体の向きを変えて、腕をつかい半身起き上がった。隼人の狭いワンルームマンションの一室だった。
「隼人?」圭は声をだそうとした。ガラガラでかすれている。
返事はない。そろりとつま先立ちでベッドから降りた。
着ているジャージの上下は、自分より二回りほど大きくぶかぶかだ。隼人のだろう。
「っつ」身体をのばしたら、また、頭が強烈に痛んだ。
なんだよ、これ。
二日酔いだろうか。隼人と深酒でもしたのか。全く、覚えていないけど。
それどころか、昨夜の記憶は全部ない。
昨日の夕方は、塚田のいる倉庫兼店舗の見張りをしていたはずだ。それ以外のことは全く覚えていない。
わかるのは、異常なまでの体調不良、痛む身体、今、自分が隼人の家にいることだけだった。
「隼人?」
圭はもう一度部屋の主の名前を呼んだ。
壁にかかる時計が、昼過ぎをさしている。いないのだろう。真面目な若社長は仕事だ。
身体を引きずるようにして部屋を動いた。
この前一緒に食事をしたローテーブルの上に、圭がポケットに入れていたものがきちんと並べられている。スマホ、財布、カードケース。
見慣れないものもあった。小さなビニールに入った数粒の白とピンクの錠剤だ。
圭はそれをつまみあげた。
塚田のところのドラッグに似ている。自分は、夕べこれを手に入れたのだ。どうやってかは全く覚えてないけど。
机の上には銀色の鍵がおいてあった。このワンルームマンションの鍵のようだ。隼人が置いて行ってくれたのだろう。
圭は、部屋の中を再度見回す。
部屋の中に、圭の上着が吊るしてあった。
昨日着ていた衣類は、上着以外は全部きちんとたたまれて置かれている。洗濯されているようだ。
下着も置いてある。つまみあげると確かに自分のパンツだ。これも洗濯されていた。
圭は、顔をしかめた。着ているジャージのズボンの中に手を入れてみると、下着は着ていなかった。
「なんだよ、これ」
何があったんだ。酔っぱらって、粗相でもしたのか。
額に手をやって思い出そうとするが、どうしても出てこない。
もし、隼人の前でみっともない醜態をさらしていたのだとしたら、と思うと、身もだえする。
耐えられない。
だいたい、なんだって、ここにいるんだよ。
そこで、強い吐き気が襲ってきた。圭はトイレに駆け込んだ。
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