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第31話
吐けるものは全部吐いてしまうと、少しは楽になった。
圭は、隼人の部屋でシャワーを使い、身体を流した。
見たところ特に異変はない。熱いお湯に浸っていると痛む身体が少しはほぐれていく。
シャワーをでると、自分の服を着た。
勝手に冷蔵庫をあけて、ペットボトルのお茶を飲む。
ローテーブルの上のスマホを見ると、何人かから連絡が入っていた。
緊急のものはなさそうだ。友人からのものもあったが、昨夜、一緒にいたのではなさそうだ。
それから、圭は、深く深呼吸をした。
何度か息を整え、「あー」声もだして発声練習してみる。かすれてはいるものの、起き抜けよりは普通になっている。
そして、勇気をふるって、隼人に電話をしてみた。
わずかにコールすることもなく、電話はすぐにとられたのには驚いた。つながらなかったと思うくらいの早さだった。
だが、すぐに電話をとったくせに、隼人は無言だった。
5~6秒という長い沈黙の間の後、圭は声をだした。
「隼人?」練習したのに声が裏返りそうだ。隼人がどんな顔でこの電話にでているのか、想像もつかない。「あのー、あのさあ。俺、今目が覚めたんだけど、なんで、隼人ん家にいるんだ?」
また、沈黙だ。
それから、聞き取れないくらい小さな声が返ってくる。「覚えて、ないのか?」
圭は、息を吸い込んで、はいた。
そして、わざと明るい、気の利かない口調にする。
「覚えてっていうか、そう、なんにも覚えてないんだ。お前んとこ来たのも覚えてない。なんで、ここにいんの?」
「本当に、なにも?」
「うん」
「お前、昨日の夜、俺の家の前にいたんだ」
「なんで?」
「知らない。それも、覚えてないのか?その後のことも?」
何度も聞かれて、つい、イラっとしてしまった。「しつこいな。覚えてない。だから、聞いてんだよ」
「そうか」
再び沈黙だ。
圭は、沈黙を消すために聞いた。「夕べなんかあった?服、洗濯してくれてたみたいだけど。迷惑かけた?そうだったらごめん」
本当は、隼人から昨日の醜態の苦情なんて言われたくなかったのだ。
だから、先に早口で謝ってしまおう。苦情ならまだしも、説教されるのはもっとごめんだ。
もっと言いつのろうとしたら、ふいに、隼人が言った。
「今、仕事中だから」
そして、一方的に電話は切られた。
圭は、電話の終わった画面を見た。
「どうしたっていうんだよ」と圭は画面に向かって言った。
想像もつかないほどひどいことしたんだろうか。隼人が、無礼に一方的に電話を切るなんて。
怒ってるんだろうか。あきれているのか?
いや、単に仕事中だったから、切ったんだろう、そう言ってたじゃないか。
俺は、今、隼人の会社のために仕事してるんだ。その仕事中に起こった事故なんだから、怒られるいわれはないはずだ。
仕事中の事故かどうかも定かじゃないけど、そういうことにしよう。
今度隼人に会ったら、お前の仕事のせいだ、と言おう。
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