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第33話

ベッドサイドに置いていた電話が大きな音を立てて鳴っている。 目覚まし代わりにセットした時間になったのか、と思いながら圭は電話を見た。 そこには、鶴見という名前が表示されていた。時間を見ると、まだ、寝始めて5分くらいしかたっていない。 圭は、顔をこすり、電話をとった。 「はい」 「鶴見だ。声が遠いぞ」 「寝てたんだ。なんだよ」苛立った。 相手は平気だ。「今、家の近くに来ている。時間はあるか?」 「今?」 「そうだ」 圭は、断ろうかどうしようか迷った。 「下で待っている」そう言われて電話は切れた。 鶴見は、圭の父、片倉竜三郎の秘書の一人だ。 初めて会った時から、もう5~6年くらいになるだろう。どこかのチンピラだった男が父の事務所に出入りするうちに、秘書になっていたのだ。 父親の下で働く他の男たちと同じで、片倉に心酔し、権力欲に取りつかれている。 チンピラだったころは髪の毛を金色に染め、ジャラジャラとアクセサリーをつけて派手なシャツをだらしなく着ていた。 今は高級スーツに身を固め、髪は黒く短く切られている。 「突然何の用だよ」 マンションの外に鶴見が黒光りのする大きな車を停めていた。 鶴見は圭に助手席に乗れと示してきた。 圭はドアを開けて中に滑り込む。車の中独特のこもった空気が、吐き気を増幅させる。 窓を開け、風を入れた。 「どこに行くんだ?」 「その辺を走るだけだ。飯は?」 「いらない。腹は減ってない」 鶴見は車を出した。 「仕事はどうだ?順調なのか?」と鶴見は言った。 「そんな話しにわざわざ来たのかよ。俺、眠いんだ。夕方からの仕事の前に寝たい」 圭はあくびをした。 「仕事の件で来た。この前の報告書、お前が書いたんじゃないな」と鶴見は言った。 報告書と言うのは毎月片倉に提出しているものだ。 片倉竜三郎は著名な投資家だ。圭は、投資先の企業について情報収集し毎月報告しているのだ。財務諸表や銀行残高ではわからないことだ。幹部の人間関係、取引先の企業や取引に違法性がないか、片倉の政治信条にそぐわないことはないか。 「言ったと思うけど」と圭は言った。「忙しい時は、レポートは外注する」 「お前は内容のチェックもしてないな。プロとしてどうなんだ、それは」 「プロとして受けた仕事じゃないからいいだろ。不満ならクビにしてくれてかまわない」

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