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第35話

「ドライブにしてはごみごみした場所だとおもうけど」 「そうだな。もう一つ、確認したいこともある。お前、最近、このエリアに来ただろう。NPO法人のところに行った」 「なんで知ってるんだ?」 「誰と一緒だった?仕事仲間か?」 圭は再度ゆっくりとした口調で聞いた。「どうして俺がNPO法人のところに行ったことを知っているんだ?」 「同行者のことは秘密か。まあ、いいだろう。NPO法人から片倉様に連絡があった。『ご子息が事務所に来られた。あいにく不在で適切な接遇をしなかった。今後、また来られて、ご子息とは存じ上げないものが応対し、失礼があってはと心配している』、と言うことだ」 「オヤジのところに、なんで連絡が?」 「NPO法人と片倉様とは長い付き合いがあるからだ」 「長い付き合いって、敵対関係なのか?」 「穏便な付き合いではない」 「何者なんだ?」 「NPO法人のことか?」 「そうだ。俺がオヤジのことを『何者』なんて聞くわけないだろ」 「知らないで行ったのか?」 「知らないから、確認しに行ったんだよ。もったいぶらずに教えろよ。NPO法人は何の組織なんだ?」 鶴見は口の端をあげた。「NPO法人は政府の司法系の組織の裏口だ。それを知らずに事務所に行くとは、お前、下手な仕事を引き受けてるのか?」 車は、ゆっくりとNPO法人の入っているビルの周囲を回っている。 圭が返事をしないと鶴見がさらに聞いてくる。 「報告書を自分で書かないほど忙しがっているのも、このNPO法人がらみの仕事のせいか?」 「そうだ。だけど、別に俺はNPO法人と対立しているわけじゃない。なのに、どうしてそんな警告をオヤジにしてきたんだ?」 「片倉様がNPO法人の痛い腹を探りに来たと思われたんだろう。お前、顔も隠さないでウロウロしてただろう」 「顔隠してウロウロする方が怪しいだろ。俺が、オヤジの手先でNPO法人を探ってると思ってるってことか?」 「だろうな。お前は、顔ですぐに身バレする。片倉竜三郎の実子はアイドル並みの美形って、この界隈じゃあ有名だからな」 からかうように鶴見に言われ圭は鼻を鳴らした。美形と言われても否定をする気はない。母親ゆずりの顔形で、得したことは多くある。目立つのは代償のようなものだ。 「それで、鶴見さん、あんたが、俺に、NPO法人を調べるのをやめろって言いに来たのか?だけど、こんなとこ車で走って、また、連中に見られたらどうするんだよ」 「見られてるさ。ビルの窓からカメラで外を映しているはずだ。見られるために来たんだ。NPO法人にはこっちから警告しに来たんだ。NPO法人が何と言おうと、こちらは引かないことと、片倉様がお前の後見をしているってことを伝えにな」 「喧嘩売ってるってこと?」 鶴見はうなずく。 「片倉様は脅迫や圧力が最もお嫌いだ。ましてや、お前に危害を加えるようなことを暗に言われて、引き下がるわけにはいかない」 圭は、あわてて窓をしめた。だが、もう遅いだろう。 「頭おかしいんじゃないのか。俺は、NPO法人と争う気はない。だいたい、そんな関係じゃないんだ。オヤジがNPO法人に喧嘩なんか売ったら、困る」 隼人の顔が頭に浮かぶ。NPO法人は、隼人の会社の大事なお客さんだ。片倉のせいで取引先をなくすようなことにはしたくない。 鶴見は圭の気持ちを理解していないようだ。 「そもそも、脅しをかけてきたのはNPO法人の方だ」 「そうかもしれないけど、NPO法人には手をだすなよな」 ため息がでてくる。頭痛と吐き気が増す。 鶴見の車はしばらくするとビルから離れ、圭のマンションへと向かった。 街の風景を窓からみながら、圭は言った。 「NPO法人とオヤジは敵対しているのか?」ともう一度圭は鶴見に聞いた。 「お前も知っているように、片倉様のことを反社会的な活動をしているとみなす勢力がいる。NPO法人はその勢力の傘下だ。連中は政府機関でないことをいいことに、我々のことを探っている。こちらに隙があれば、必ず、叩いてくるだろう」 「つまり、NPO法人の役割は、犯罪行為を違法に探って、敵対的な行動をとる相手をつぶすことなのか?」 「まあ、そういうことになる」 圭は、うなずいた。なるほど、少し今回の依頼の背景がみえてきた。 ヤクザ者の塚田を相手にアンダーグラウンドなNPO法人が大内警備に金まで払って動くのには何か暗い理由があるのだろう。単純な違法ドラッグがらみなら警察や麻取が正規ルートで捜査すればいいはずなのだから。

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