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第40話
社長になった時には、彼女のような存在がいたが、父親の跡を継いで社長になる話をしたら、だんだんと疎遠になってしまったのだ。それ以来、誰とも付き合ってはいない。
隼人に喧嘩をするような彼女がいると社員が思い込む理由は不明だ。
「またまた、隼人さんかっこいいから、もてるでしょ」
「喧嘩しちゃってるからそんなこと言ってるんですか?」
「隠さなくてもいいじゃないですか、別に」
「隠してるとかじゃなくて」
何度か訂正したが、酔っ払いたちに何を言っても無駄だな、と思い始めていた時に、内ポケットにいれていたスマホが振動した。
取り出して画面を見た。
圭だ。
電話を取ることができず、数回振動するのを眺めていたら、留守電に切り替わった。
もういちどポケットに戻そうとしたら、また、振動した。
隼人は心を決めた。
立ち上がりながら電話をとり、飲み会の席から離れた。
「隼人?今、お前んちの近く」と圭は言った。普通の、普通の声だ。「話があるんだ。いろいろ分かったことがあってさ。じゃ、待ってるから」
圭は、隼人の都合も聞かず、電話が切れた。
かけ直して、今夜はだめだと伝えようかと思った。
会いたくない。
そうだ、それにせっかくの社員との飲み会なのだ。こういう場は大事にした方がいいはずだ。
帰らない方が、常識だろう。
自分をごまかしているのはよくわかっている。だが、会いたくないのだ。
ところが、席に戻ると全員がこちらを見ている。
「彼女からですか?」
「よかった、むこうから電話ってことは、それほど怒ってないんですよ」
「早く帰ってください」
またもや口々に言われた。
否定することもできない感じで、強引に店を追い出されてしまった。支払いをすることもできなかった。
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