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第47話
南川は、わかったよ。そうだな、と苦笑し、すぐに話を変えた。
彼は、ノートパソコンの画面を立ち上げて圭に見せてくれる。
「この前、お前が持ってきたドラッグの分析がある程度できた」
画面にはよくわからない色とりどりのグラフが並んでいる。英語表記の名称も。
「こっちは、ピンクのドラッグだ。何だと思う?」
「もったいつけんなよ」
南川はニヤリと笑った。さらにうながすと、やっと答えた。
「催淫剤。媚薬だよ。それも、かなり強力」
「強力って、どの程度だよ」
「飲んだら意識がぶっとぶ。それから、強烈な性欲に襲われるらしい。セックスせずにはいられなくなる。その場にいる誰とでもしたくなるんだってさ。セックスするためなら、何でもするらしいぞ。おまけに、その時のことはほとんど記憶から飛ぶ。誰に何をされたのか、自分が何をしたのか、前後の記憶を含めてほぼ覚えていないそうだ」
圭は、画面を見る。
表示の意味は分からないが、南川は嘘はつかないだろう。
「そこまでのものが本当にあるなんて」
「実は、このピンクのドラッグは、前にも分析所に持ち込まれたことがあったらしいんだ。それで、所長はドラッグについて知ってた。体験者に話を聞いたらしい。ものすごい効果だったそうだ」
「威力の強い催淫剤って、ファンタジーだと思ってた」
「まあ、まだほとんど流通してないから、ファンタジーみたいなもんだな」
「どうして流通しないんだ?そんな効果があるなら、誰でも欲しがるだろう?」
「欠点がいくつかある。高額だってこと。効き目が強く出る奴と出ない奴がいる。それと、遅効性。飲んでから30分で効くときもあるけど、大半は、3から5時間後だ。下手するともっと後に効き目が表れる。いつ効くかわからない、効くかどうかわからないとなると、使い方が難しいんだろうな。その割に値段が高い」
「へえ」あいづちをうった。
その後、南川はなにか話を続けていたが、だんだん耳に入ってこなくなってきた。
前後の記憶が全くない。そういうことが、先日あった。
まさか、と思う。
自分は、これを飲んだのか。
何があったのか、覚えていない。
あの時。
目が覚めた時は、隼人の家だった。
まさか、まさか、だ。
そんなはずはない。
ふいに、南川の声がまた頭の中に入ってきた。
「白い方は、アンフェタミン系のドラッグだ。ついでにいうと、質はあんまりよくない。塚田は、あまりいい仕入れルートを持ってないんだろうな。完全に違法なものだ。これを販売しているだけで、塚田は、真っ黒だ」
圭は、南川をじっとみた。
「どうした?」不思議そうに聞かれる。
圭は、頭を振った。疑念を振り払う。
「いや、なんでもない。こっちの白い錠剤と塚田の関係の証拠さえあれば、犯罪者だという証明になる訳だ」
「そうだ。仕事は終わりってことだ」
「白いのはわかるが、ピンクのはなんで一緒に売られているんだ?一緒に飲むと、ピンクの効き目が早くなるのか?」
「白とピンクを一緒に服用するとどうなるのかは、わからない。脳にダメージを与える可能性もあるだろうな。この手の化学化合物は、怖いから。白いのが質が悪いから、代わりに、ピンクのをビジネス化したいのかもな」
南川はそう言った。
「ピンクの方は、違法性はないのか?」
「うーん。どうだろうな。まだ、指定はされていない。危険性や常習性もわからない。でも、強烈な催淫効果があって、記憶がぶっとぶドラッグなんて、危険だろうから、仮に出まわったらすぐに違法になるんじゃないか」
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