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第48話
南川が帰った後、圭は、暗闇の中で店舗の動きを追うカメラ映像をみながら、考えた。
あの記憶のない日、隼人の部屋で目を覚ました。
吐き気と頭痛、全身の倦怠感のせいで、ほとんど何も考えられなかった。
ドラッグを飲んだか飲まされたかした自分は、隼人の部屋に行ったのだ。
全く覚えていないが、用事でも思いついたのだろうか。
隼人にドラッグを入手したことを告げようとしたのか。だけどその途中で薬が効いてきてしまい、記憶が飛んだのかもしれない。
南川の言う通りの効果だとしたら、自分はセックスをしたくてたまらなくなっていたはずだ。
隼人の部屋に行き、それから。
それから、どうしたんだろうか。
圭は、考えを遮りたくなる。
隼人を誘惑したのだろうか。
よりにもよって、彼の家に行ってしまうとは。
あとくされのない気軽なセックスの相手なんていくらでもいただろうに。
隼人は、どうして圭に何があったのか言わなかったのだろうか。
圭が、ドラッグのせいで乱れてせまったのだとしたら、隼人のことだから説教をしてきそうなものだ。
ドラッグを摂取するのは危険だとか、売人に一人で会ってはいけないとか、誰でも思いつく程度のくだらない防御策をいいそうだ。
でも、自分がどれほど迷惑をかけられたのかは、言わないかもしれない。
圭が死ぬほど恥ずかしく思うことは、胸の奥にしまう。そういうタイプの男だ。
だから、何も言わないのか。圭が記憶が全くないと言ったから、それでよしとしているのか。
そこまで考えて、圭は自分を嗤った。
ごまかしている。自分で、自分を説得しようとしてどうするんだよ。
圭に誘惑された隼人が、なにもせず、自分をなだめていただけだっていうのか。
無難すぎる考えだ。
自分が伸ばした誘惑の手を、隼人が避けなかったら。
圭の誘惑に勝てなかった人間は多い。今までだって同性なんてありえないといっていた男が、何人も圭に誘惑されてあっさりと落ちた。
隼人。
もし、彼が圭の誘惑にのり、自分とセックスをしたのだとしたら。
翌日、覚えていないと言われて、隼人は安心したのだろうか。覚えていないことをいいことに、何もなかったことにしているのだろうか。ずっと黙っているつもりなのだろうか。
隼人が話をしないかぎり、真実はわからない。
知りたいのか、知りたくないのかさえ、圭にはわからない。
だが、また、思考が最初に戻る。
あの隼人が、薬の効果に乗じて自分にそんなことをするはずない。
だいたい、「好きでもない相手とセックスなんてしない。お前もしてはダメだ」と大真面目に説教しかねない彼が、自分に誘惑されたくらいでするとは思えない。
だけど、もし、もしも、自分とセックスしていたとしたら。
それは、何を意味しているのだろう。
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