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第50話
隼人は、カバンからこの前渡したファイルを取り出した。
「英語の内容、わかったのか?」
「わかったというか、どうなのか」と隼人は曖昧に言う。「中身は、観光案内ばっかりだ。時刻表とか、ホテルの金額とか、旅行の見積もりもあった」
圭はうなずく。
「前、話をしたヨガの先生にも聞いた。そうしたら、これは、意味をなさないって言うんだ。観光案内みたいだけど、そうじゃないって。矛盾も多い。表現も、変だ。それで、考えたんだが、これは、観光案内のために書かれたんじゃなくて、なにか、別なメッセージなんじゃないだろうか」
「暗号のみたいな?」
隼人はうなずいた。
「ドラッグの取引に関する情報なんじゃないか。富士山が何を指しているかわからないが、日付や場所、金額がこの情報には書かれている」
「へえ」
隼人は、英語の文章を整理した表を見せてくれた。確かに、何月何日何時にどこで、ということが書かれている。それに付随する旅行代金も。時系列でみると、意味がありそうだ。
「これ」と圭は表の一行を指してた。「来年の昨日の日付だ」
圭は、見張り小屋のカメラがとらえた人や車の出入り一覧のファイルを取り出し、隼人が作った表と見比べた。
「そうだ。ここに車が出入りしている日と、隼人の表は、年はずれてるけど、同じ日付がある。隼人が言うように、取引の連絡なんだろうな」
隼人も表を見ている。「まだ、英文全部を表にしたわけじゃない」
「表の予定をもっと分析したら、仕入れ元も、販売先もわかりそうだ。実際に、取引している連中のところにも行ってみたい。そうすれば、もっと色んなことがわかる」
「危険じゃないのか?」
「そりゃあ、少しは危ないだろうけど」
隼人は考えこんでいる。
「今回の仕事は、塚田のことを調べるのが目的だ。他の取引先については調べなくてもいいんじゃないのか」
「だけど、犯罪の証拠をつかむのが仕事だろ。取引先が違法な連中だってわかるほうがいいだろ。それに、取引されてるのは違法なドラッグだけじゃないものもあるみたいだし」
そう言ったあとで、圭は、しまったと思った。ピンクの催淫剤の話は、隼人にはもっと後で話そうと思っていたのだ。
だが、隼人は聞いてきた。「ドラッグだけじゃない?」
圭は、ごまかそうかとも思ったが、やめた。
「白いのとピンクのがある。白い方は、アンフェタミン系の覚せい剤。ピンクのは、覚せい剤じゃない」
隼人は黙って聞いている。
「ピンクのは、催淫剤だ。値段がかなり高いからまだそれほど流通してないらしい」
隼人の顔を、圭はじっとみた。
彼は、驚いた顔をした。口を軽く開け、何かを言いそうになり、また閉じる。
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