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第61話

プラスチックのケースを握りしめていると、ジャケットの内ポケットに入れた電話がなった。 見ると、見張り小屋をまかせているアルバイトの大学生からだった。 めったに電話なんてかけてこないのに緊急事態か、と電話をとると、「狭霧さん!」と慌てた声がした。 「どうした?」 「見張ってたら、人が。あの、倉庫に」と息せき切っている。「人が連れ込まれて行きました」と大学生は言った。「ぐったりしてて。ヤバいですよ。ヤバい」早口でまくし立ててくる。普段は年齢以上に落ち着いているのに、かなり混乱している。 「塚田の倉庫に人が連れ込まれた?」と圭は繰り返した。 「南川さん、連絡つかないし。俺、どうしようかと思って」 「もっと詳しく説明してくれ。何時くらいだ?」 圭は、大学生に見たことを聞いていく。興奮しているので順序はぐちゃぐちゃだが、状況はわかってきた。 「ちょっと前です。人の出入りがいつもと違って、動きが変だなって思って、よく見張ってたんです。そうしたら、白い車が停まって、中から、何人かの男に囲まれて男の人が出てきました。ちらっとだけだったけど、足元ふらついていて、ほとんど自分じゃ歩けなかった。背の高い人です。若い感じで。多分、後ろで手を縛られてた」 そこまで聞いて、背筋がすっと冷えた。 「その、映像ある?」 「え?ああ、はい。もちろんです。全部撮影してありますから」 「俺にその映像みせられる?これ、ビデオ通話に切り替えて」 「ちょっと待ってください」と大学生は言った。そして、ビデオ通話越しにモニターを映し出した。映像が再生されている。 夜の光景だ。確かに、人が連れ込まれている。背が高い体格のいい男だ。 冷たい汗がつたう。 「映像荒いな。ノイズ除去できる?」と圭は聞いた。 大学生は操作をし、もう一度圭に映像を見せた。 「隼人」と圭は言った。「なんで、こんなことに」 「狭霧さん、どうしますか?警察に言わないと」 「警察」と圭は言った。頭の中が真っ白になる。だが、そうはしていられない。「警察呼んでも、ちゃんと動いてくれるまで時間がかかりすぎる」 事情を聞かれている間に隼人の身が危ない。 助けに行かなければ。だけど、大阪から戻るのだけで何時間もかかる。 「南川は?」と大学生に聞いた。 「福井にいってます。何回も連絡してるんですけど。電話つながらないんです」 そういえば、やっかいな仕事があるとか言っていた。 圭は大学生に南川と連絡をとり続けるように依頼した。そして、電話を一旦、切った。 どうしたらいいんだろうか。 考えが何も思いつかない。だけど、絶対に助けなければ。すぐにでも。

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